【Rockman.EXEA】
充電したい梅雨間近の彼女
『…という訳で、明日からは梅雨のお天気なのら!』
ぅ〜…傘マークがズラっと並ンどる…」
「ま、六月に入ったし仕方がねぇな」

ヒノケンの家のリビングにアツキが居る、当たり前のような休日の午後。会話をしながら点けっぱなしにしていたテレビからウェザーくんの天気予告が始まり。
それまでの会話を適当に切り上げ、二人がテレビの方に顔を向けて週間予告を目にすれば。
ずらりと並ぶは傘マーク。
六月に入り梅雨の訪れを実感させられる予告内容に、アツキが既に憂鬱げな声を漏らす。

「大体、明日からどころか今夜から雨だろ」
「まだ降ってねぇけンど、曇天だスな…」

炎で焔な二人、この時期は調子が優れない。
アツキ程ハッキリ態度に出したり口に出してはいないが、ヒノケンも雨が続くのはシケた気持ちになりがちで、歓迎したい時期では無いけれど。
ある程度の仕方なさは、わきまえている模様。
その一方でアツキの方はというと窓の外に見える曇天に対して今からガックリとしていて、不満たっぷりの声色で灰色の空へと浮かべるは溜め息。

「も〜…ウェザーくんで晴れサせれば良いでねか」
「ずっと晴れさせて適温にし続ける事もウェザーのヤツには可能だがな、ンな事をしたら才葉の人間に四季の感覚が無くなっちまうじゃねぇか」
「オラは別に一年中とか言ってる訳で無ぇだ、梅雨の時だけ晴れを増やスて欲スぃンだべ」
「ま、その気持ちは分かるけどよ」

そんな話をしている内にウェザーくんの天気予告が終わり、番組は二人にとってあまり興味の無い話題へと変わってしまった為。
ヒノケンがリモコンを手にして適当にチャンネルを切り替えたが、余所も興味を惹かれる番組というのは見られなかった事から電源を切ると、リビングは瞬間的な静寂に包まれる。

「…はぁ。なンか今から沈んだ感じがスるだ」
「おいおい、降り出してもいねぇってのによ。そんなんじゃ俺の彼女に相応しくねぇぞ」
「む…ちっとくらい沈ンでも、オラのハートはオッサンより熱く燃え盛っているっぺや!…ンでも、なンちゅうか…こう…充電スたい気分だなや…」
「!……へっ」

とす、と。
不意にアツキの頭がヒノケンの肩に寄せられ、そこからヒノケンの腕を取って抱き付く。
充電…というより二人ならば、もらい火の様な。
梅雨を前に熱を蓄えようとヒノケンから奪う。
だがアツキの様子には熱と炎の強奪者というよりも、何処か───縋り付くといった様。
ああ、素直になれない彼女なりの。
梅雨を口実に充電なんて言い方で、甘えたいから。

「…嬢ちゃんが来るからケーキ買ってるぞ。それでも充電とやらが出来るんじゃねえか?」
「…確かにケーキの方が良いだなや!たっくさン充電出来るだ!……なーンてオラが言ったら、オッサン傷付くンでねぇの?ソレ」
「例え口じゃ言ったとしても、嬢ちゃんを満足させられんのは俺だけだ。何も問題無ぇぜ」
「むむ…そげに自信満々なオッサン、何か腹立つっちゅうか…悔スぃけンど、ケーキはケーキで後で食べるだ。…今は、オッサンで充電が先だべ」

意図を見透かされたり、余裕綽々だったり。
ヒノケンの態度にアツキは少し頬を膨らませたが。
意地っ張りを踏み出し掴んだ腕は離せない。
一際に強く縋り、あくまで自分のモノだからと伝え。
ヒノケンの熱を取り込もうとするアツキの事を、何時もよりも優しげに口角を上げて見詰めるヒノケン。けれど奪われっ放しというのは性に合わず。
自分だって梅雨を前に熱が、焔が欲しいのだ。

ぐっ…!
……ぎゅう…っ……

「ッ、な、オッサン…」
「俺だって梅雨はシケるからな、"充電"しねぇと」
「……オッサンは平気そうだス必要無ぇでねか」

アツキが縋るとは逆の、自由なヒノケンの腕が伸び。
充電中のアツキの身体を抱き寄せて。
炎も焔から、もらい火を。

「…っとに…折角オッサンから充電スとったのに、こンではもっと貰わねっと割に合わね」

だから、ヒノケンに抱き付く腕の力を強めるアツキ。
お返しとばかりに、アツキを抱き寄せる力を強めるヒノケン。互いの熱は行ったり来たり。
奪い合う中で炎と焔は、メラメラと高まり燃える。
憂鬱な梅雨も、二人一緒ならきっと大丈夫。

■END■

2022.06.05 了
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