【Rockman.EXEA】
雨の日の猫は眠い
───ザアアァァアア…ッ……
……うつら…うつ、ら…
「……ン…あれ…オッサン。…外、雨だなや」
「…お前にソレ言われるの、もうこれで三回目だぞ」
「は?…そげな訳……ふぁ…あ…ッ…」
ヒノケンへの反論の途中で大きな欠伸をするアツキ。
この姿を目にするのもヒノケンには三回目であり、半ば呆れた眼差しをアツキへと向けた。
今日は梅雨入りの中での休日。
雨は朝から既に降り出していていたのだから、午後を迎えたというのにまるで初めて雨が降っている事に気が付いた様な事を言うアツキに、初めはからかっているのかと思ったが。
どうやら、そういう事では無く。
雨の日の猫は眠い等と表現される通り、梅雨空で一日中眠気に襲われ思考が鈍っている為。
先程から、リビングのソファでヒノケンの隣に座りながら舟を漕ぎ、はたと目覚めては窓の外を見てボンヤリしたままの意識で雨を理解しヒノケンに伝える、という事を繰り返し。
これで三度目だという事。
「…いや、さっきもオラ…雨っちゅうたか、な…」
「流石に三回目になりゃ少しは覚えているか」
「ふぁ〜あ……スっかス…ズっと眠てぇだなや…」
「ンな眠いなら、ベッドで好きなだけ寝てこいよ。俺が寝る場所も考え無くてイイからよ」
「……平気…だべ…オラ、ちゃんと起きとる…から」
アツキを家に迎えて以来、ヒノケンは猫についての知識を取り入れる事が増えており、雨の日は野生の本能や身体の仕組みから普段以上に眠るとは知っていて。
だから折角の休日だけれど、構ったりせず好きなだけ寝かせてやろうとヒノケンは考えていたのだが───どうも、アツキの方がそれを良しとしておらず。
こんなにも眠いのだから、ベッドを独り占めしてコロンとアンモニャイト寝をすればいい。
しかし頑なにリビングのソファから動こうとせず、眠るのを拒否する様に舟を漕いでは無理矢理に目覚めて意識を取り戻そうとしているのは。
そんなの。
ヒノケンとの時間が欲しいからに決まっている。
「…やれやれ。しょうがねぇ猫だぜ」
「…う、にゃっ…」
ぐい…っ……ぎゅ…
とろとろの眠たげな眼のアツキの肩に腕を回し。
自分の方へと抱き寄せるヒノケン。
元より我慢する、という性分では無いから。
猫が望んでいるのならば、沢山相手をしてやろう。
「…こげな状態のオラに構っても、つまらねぇンでねぇの。あンま、相手は……ぁふ…わ…」
「へっ…構って欲しそうにしておいてソレかよ」
「う…オ、オラは別に…そげなつもりで…」
「ま、とにかく寝る気が無ぇってんなら可愛がってやらぁ。…それで良いんだよな?小僧」
「……ン…」
こくん、と素直に小さく頷くアツキに。
ヒノケンは口角を上げて僅かに目を細めると。
眠たげなままの猫との愛しいスキンシップを開始。
スリ…スリ……シュ…シュッ…
「って、オッサン…いきなり、しっ…ぽ…」
アツキの肩に回して抱き寄せた腕を、ヒノケンは静かにするりと下げるや真っ白な尻尾へ。
指先を触れさせる戯れから始まり、あくまで軽く愛しげに握り寄せて扱いてやれば、尻尾を触られると思っていなかったらしいアツキはピクンと反応を示したが。
すぐに黙って大人しくなり、されるがまま。
ヒノケンの肩に頭を寄せ、愛でられる心地に浸って。
……ぴく、ぴくん…
…ちゅっ…はみ…っ…
「ンにゃ…耳っ…なにスる、だ…」
「お前の方から差し出してきたんじゃねぇか、猫耳もこうして可愛がれって事なんだろ?」
「…勝手な事を、ぬかスでねぇ…べ。…っとに…」
どうアツキが言い返してみても、ヒノケンからすれば尻尾とお揃いの真っ白な猫耳が目の前に「どうぞ」と差し出された様なモノ。時折、ぴくりと尻尾に同調して震えるのが愛らしく。
キスを贈り、口唇でそっと食んでも仕方がない。
尻尾を撫で擦るのも、ゆるりと続けながら。
フカフカの猫耳を口唇で愛でられるアツキの表情には、眠たさとくすぐったさの狭間の顔。
ヒノケンからの愛撫と一定のリズムで降り続ける雨音に身体を委ね、じっくりとろとろ。
貴方の中に落ちてゆく心地は、他には無い幸せ。
「…リボン、崩れてるな。ちょっと直すぜ」
「……ふにゃ…?」
「へっ…もう殆ど寝掛けじゃねぇか、全くよ」
ヒノケンに沢山触れてもらえて、アツキは眠る寸前。
既に何時もの生意気な減らず口も絶え絶え。
その中で、ふと気が付いた。
首輪の代わりに自分の猫だと示す証として結んだ赤いリボンが、すっかり崩れて解けそう。
まだまだ愛でてやりたいけれど、尻尾や猫耳から手や口唇を離してアツキの背をしっかりソファに預けさせ、ヒノケンはリボンを結び直してあげる。
決して余計な苦しさは与えず、けれど緩やかな所有。
結び直したリボンにそっと触れ、満足そうに笑む。
「…キッチリ結び直してやったぜ小僧。……小僧?」
「……すー…すかー…ン、ん…オッ…サ、ン…すぅ…」
「…ま、そりゃこうなるか。へっへっ…」
遂に限界を迎えたアツキの睡眠欲。
リボンを直している間にストンと夢の中へ。
それでも尚、起きているつもりなのか。ヒノケンの事を呼び求めようとする寝言が愛しく。
まだまだ降り続ける雨音に紛れ。
ヒノケンは無防備な猫の口唇へ優しくキスをした。
おやすみ、自分だけのリトル・キティ。
■END■
2022.06.12 了