【Rockman.EXEA】
お昼寝はアンモニャイト
「(……あンれ?オッサン…?)」

幾ばくか春の気配が感じられるようになった季節。
アツキは天気の良さに誘われ、冬の間は控えていた庭で過ごす時間を久し振りに堪能していたが、まだ夕陽になるまで過ごすには早かった模様。
真っ白な猫耳に冬の名残を伴う冷たい風を受けたところで、今日はこれまでとリビングに繋がる窓からアツキは室内に入ったのだが。
休日でソファに座っていた筈のヒノケンが居ない。

「(…飲み物の、おかわりか何かだべな)」

そう考えたのは、テーブル上には電源が点いたままらしきヒノケンの研究用ノートパソコンが置かれたままで、ヒノケン用のマグカップは消えているから。
待っていれば、すぐに戻ってくるだろう。
或いは、自分も何か飲み物を取ってこようか。
…けれどアツキは、飲み物の前に───机上のノートパソコンが気になりソファへ近付く。

「(…見たって分かンねと思うけンと…)」

研究用パソコン、という事は画面には研究データの類が表示されたままの可能性は高く。
勿論、アツキが覗き見て詳細を知る事は出来ないが…何時か、"猫の手も借りたい"事もあるかもしれない。何か、出来る事はないのか?
そんな気持ちから、無理だと思っても画面を覗くと。

「……は…はぁぁああああ?!なっ、何ねコレっ!?」
「っだあ何だ小僧!何デカイ声で騒いでやがる!」

アツキが画面を覗くと、ほぼ同時。
リビングのドアが開き新しい飲み物を手にしたヒノケンが戻ったのだが、そこでアツキの叫びに出迎えられて、反射的にヒノケンも大声で応戦する。

「いやオッサン!大声も出るだ!何ねこの壁紙!」
「あん?…あー、壁紙…パソコンのヤツか」

何に対して大声を上げたのか。"壁紙"と言われたヒノケンは、すぐパソコンだと理解した。
つまり、アツキの剣幕が何故かも解った訳で。
パソコンに設定されていた壁紙は…アツキが全く知らぬ間に撮られていた、気持ち良さそうに眠るアツキの姿だったから。

「こ、こげな写真いっつの間に撮っただ!ちゅうか寝とるトコを勝手に撮るでねぇだ!」
「イイじゃねぇか。あまりにキレイなアンモニャイトして寝てっから、つい撮ったんだよ」
「あ、あんもにゃいと?」
「簡単に言やぁ、尻尾含めて身体を真ん丸にして寝てる猫のこった。アンモナイトの化石に似てるから、そんな風に呼ばれてんだよ」

そう言われてアツキが改めてパソコンの壁紙を見ると、確かに撮られている自分は日向で身体を可能な限りコロンと丸めて眠る姿で。
とてもキレイに丸まり、気持ち良さそうに寝ている。

「…ンだからって、勝手に撮って黙って壁紙なンかにスるでねぇ!別のにせンか!別の!」

アツキ自身で見ても撮りたくなる気持ちはちょっとだけ解ったが、それでも許可無く撮られて壁紙設定されているというのは、単純に恥ずかしい。
改めてヒノケンに抗議してみると。

「別のお前の寝顔写真なら良いのか?」
「べっ…ちょ、ちょっと待つだオッサン!オラの寝顔他にも撮ってるっちゅう事なンか!?」
「そろそろ、お前の寝顔アルバムが作れるな」
「アホか!ど、どンだけ撮ってるだ!」

どうやらこの一枚だけではない事が判明して、聞かなければ良かったと頭を抱えたくなる。
そんなアツキの様子に、ヒノケンは愉しげだが。

「…ま、そうまで言うんじゃ仕方がねぇ」

ひとしきり、アツキを翻弄したところでヒノケンはソファに近付き何時もの位置に座り。
問題のパソコンを手慣れた様子で操作し始め。

「ほらよ、コレで良いだろ」
「えっ…」

そう言ってヒノケンはパソコンの画面をアツキへ。
先程までのアンモニャイト寝をしていた自分の姿は無くなり、壁紙は当たり障りのない綺麗な風景写真へと変わっていて。それは、確かに。
アツキが望んでいた事、だけれども。
ちょっと、寂しそうな顔のヒノケンの事が───

「……」
「どうした?小僧。まだ何か文句かよ」
「……オッサン。さっきみてな写真は困るけンど…」

───…

次の休日。
今日も良く晴れていて、春の気配がより迫る。
庭先に出ていたアツキが窓からリビングに戻ると、またヒノケンは席を外しているらしく。
戻りを待つ研究用ノートパソコンがポツンと。

「……」

吸い寄せられる様、パソコンの画面を覗くアツキ。
壁紙は───ヒノケンとアツキのツーショット。
「一緒に写っているなら」と、寂しげな表情に絆されて、ついついそんな事を言ったから。

「…ふ、ふンっ…」

ヒノケンの表情がやたらと嬉しそうに見えるのが、何だか悔しい気持ちも湧いてくるが。
おんなじくらい、照れるけどアツキも嬉しくて。
画面の中の一人と一匹に少しだけ目を細めて笑みながら、ゆるりと白い尻尾を揺らした。

■END■

2022.03.03 了
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