【Rockman.EXEA】
Tiny white tiger
ヒュルルル…ドン、ドドン…!
「わ、何ね。花火…だか?」
「ああ、年が明けたな。おめっとさん」
「…ホントだ、12時を回ったンか。…えっと、オッサン…そ、そンの…今年もヨロスク、な」
「おっ、新年くらいは素直だな。宜しくな小僧」
とても静かだけれど、何処か温かな新年の幕開け。
大晦日は大掃除の仕上げをアツキも手伝って終わらせると、そっちの海老天の方が大きいバカヤロウ同じだと言い合いながら、一人と一匹で年越しそばを食べ。
そこからはお互いリビングでテレビ等は敢えて点けず、時にどちらからとなく話し掛けながらも各々でゆったりとした時間を過ごし。
迎えた新年は、一見すると特別感は無く見えるが。
アツキにとってもヒノケンにとっても、「お互い」の存在があって迎えた新年というのは…それだけで今までとは違う。
素っ気なさそうな「宜しく」の中にも。
互いを繋ぎ、傍に居たい意思が覗いている。
「ところでオッサン、干支?って今年は何なんだべ」
「結構そこかしこに出てたじゃねぇか、寅年だ」
「虎!エエでねぇか。オラの年っちゅう事だなや!」
「言うんじゃねぇかと思ったが、やっぱりかよ。小僧じゃ虎には程遠いぜ、子猫ちゃんよ」
「むむっ…そげな事っ、無ぇだ!」
堂々とアツキが宣言した事を見透かす様に、ヒノケンはくつくつと笑んでアツキを煽ると。
カチンときたアツキは案の定、食って掛かるも。
それすらもヒノケンには予想通りといったところ。
可愛げあるモノを愛でる様な視線を送られてしまい、アツキには「ぐむむ…」とでも聞こえてきそうな悔しげな表情が浮かぶ。
「オラはいッツだって虎みてに凛々しく構えとるだ」
「寒いのは強ぇとか言っておきながら、一人用のホットカーペットを買ってやったら、ぎっちりその上で温まって蕩けた顔してる猫の何処が凛々しいってんだ」
「ふぐっ!…い、いや…そ、そンれは…」
寒さが本格的になり始めた頃。
ヒノケンはお一人様仕様のホットカーペットを購入したのだが、アツキ用だとは告げずリビングのアツキお気に入りのクッション側に置き。
当然ながらすぐにアツキはホットカーペットに気が付いたけれども、ヒノケンが何も言わぬ為に自分が使って良いものか、数日は様子見していたが。
クッション側に置かれたままヒノケンが使う様子が無い事から、これは自分が使って良いのだろうとアツキは判断し、使い始めると。
すっかり気に入ったらしく、今もアツキはヒノケンが座るソファからは少し離れたコンセント近くの床に陣取るホットカーペットの上。
「ぬ、温いンだからちっとくらいは緩ンでもスッかたねぇべ!大体、オラは別に頼ンどらンのに…だけンと、オッサンが折角オラに買ってきただから使ってやってるだけだかンな!」
「そうなんだがよ。しかし使い始めたらクッションだの毛布だのまでホットカーペットに持ち込んでるじゃねぇか、俺はそこまで気に入ると思わなかったぜ」
「ぐぐっ…コレはその…」
確かに、本来はソファの上にあった筈のアツキお気に入りクッションもホットカーペット上にあるし、ついでに毛布まで持ち込まれて温む気満々。
アツキは実際、本当に寒いとは思っていないのだが。
それでも猫の性というものか、ひとつホットカーペットというタガが外れると、ズルズルとその上で過ごし易いように気付けば手を加えており。
ヒノケンからすれば作戦成功というもの。
ここ最近はホットカーペット上で毛布に包まり尻尾を幸せそうに揺らすアツキを見る度、ヒノケンは内心ほくそ笑んでいたのだ。
そこに虎を見る想いは無い、可愛らしい自分の猫。
「…ふ、ふンっ」
「おやおや、もう反論してこねぇのか?」
「考えたらオッサンの相手を真面目にスる必要なンか無いかンな、虎なンだから悠然とスとけば良いンだべ。変に動揺なンかスねぇンだべな」
「ふぅん?そうかい」
とっくにかなり動揺している気がするけれど。
そう言ってアツキは話題を切り上げようとしたのだから、ヒノケンも満足すれば良いのに。
退いたところを追い込みたくなる、悪癖。
…ギッ…
「……オッサン?なンっ…」
ヒノケンから目を離したアツキだけれど。
ソファから立ち、自分に近付く気配を感じ。
真っ白な猫耳をピンと自然に立たせて身構える、と。
…ぐいっ。……ちゅ…ッ…
「ふにゃっ?!〜〜〜…ッ…きゅ、急に何をスるだ!」
「へっへっ、悠然が聞いて呆れるぜ。キスしてやっただけで動揺しまくりじゃねぇの小僧」
じっとしていたアツキが、目の前にヒノケンが来たと思うや否や顎を掴まれ上に向けられ。
あっという間に奪われていた口唇。
訪れも離別も本当に軽々しい口付けに、アツキは頬も猫耳も尻尾までも真っ赤になりそうになっているけれど、それは…何時もの照れだけではなく。
アツキの中に沸き上がったのは、綯い交ぜの怒り。
「〜〜〜…オッサンなンか知らねぇだっ!とっととオラから離れて、どっかサ行くだッ!」
「はぁ?おい、小僧…」
一瞬だけヒノケンを睨み付け。
がばりと毛布を頭から被り篭ってしまったアツキ。
ヒノケンがスキな真っ白の猫耳も尻尾も隠れ。
流石に、アツキの許容を超える事をしでかしたのだと悟るが、明確には原因が分からない。
暫し、ヒノケンは毛布の塊の傍に居たけれど。
やがて傍から立ち去り、リビングからも出ていったであろう静かなドアの開閉音が毛布の中のアツキの耳にも届いた。
「(…新年なったばっかで、喧嘩スつまっただ…)」
きゅ、と。
噛み締める口唇。
キスを無かった事にする様に。
「(だけンと、アレはオラは悪くねぇだ!…オラ…ちゃんと、新年初めてのキスばスたかったンに…なンにあのオッサン、あンな軽くテキトーに済ませっとか!)」
アツキの許容を超えさせた行為は。
あしらわれた事でも煽られた事でもなく、大切にしたかった年の初めのヒノケンとのキスを、ヒノケンから軽率に心の準備無く奪われた事。
それがアツキ自身でも驚く程に怒りや悔しさとなり。
瞬時に爆発してヒノケンにぶつけてしまったのだ。
「(……だから。オラ…悪くね……)」
でも、時間はジワジワと怒りよりも後悔を先立たせ。
けれど謝るのは違う、けれどこれで見捨てられたら。
ぐるぐる、毛布の中でクッションを抱いたまま、アツキは動けず時計の音だけが耳に付く。
───カチャ…
「(は…えっ、オッサン…?)」
ホットカーペットも毛布もあるのだから冷えてしまう事は無い、今夜はヒノケンのベッドで一緒には寝ず、ここで寝てしまおうかとアツキが考え始めた時。
再び静かにリビングのドアが開く。
どうせ何か忘れ物を取りに来ただけだと、決して身動きせず出て行くのを待っていたアツキだが、ヒノケンは明らかに近付いて来ていて。
……コト…
「悪かったな。それ飲んで機嫌直しな、虎さんよ」
ふわふわとアツキの目の前に立ち昇る湯気、そっと置かれたのはアツキ専用のマグカップ。
湯気の奥に目を凝らすと自分の猫耳や尻尾と同じ色。
甘く優しい、ホットミルク。
「……」
子供扱いじゃないか、と少し思ったけれども。
何故だかとても美味しそうで、そろそろと毛布の中から腕を伸ばしてマグカップを手にし。
息を吹き掛け軽く冷ますと、マシュマロに気付く。
微かだがハチミツの香りも感じられ、わざわざヒノケンなりにアツキ好みのアレンジを加えたホットミルクなのだと分かる。
嫌がらせでは無いだろう、敢えて選んだのだ。
…こく、こくん…
「…甘くてあったかくて。…うンめ」
「そりゃ良かった、ゆっくり飲みな」
「……って、オッサ…ン」
素直にホットミルクを飲み始め、短いけれど口を利いてくれたアツキに安心した様な口調。
そんなヒノケンがアツキの目の前から消えたと思ったら、アツキの背後に座り背中合わせ。
とても近い距離。
だけれど、直に顔を突き合わせるのは早い。
この背中合わせに、見える想い。
───とす、ん…
一口、また一口とホットミルクを飲む間。
ヒノケンもアツキも黙っていたが、やがてアツキは毛布から頭を出し、ヒノケンの背中に片側の猫耳を当てるようにして寄り掛かり。また一口。
どうやら落ち着いたと、ヒノケンから口を開く。
「…初喧嘩だな、今年はどれだけ喧嘩するんだか」
ヒノケンの声は背中から響きアツキの猫耳へ。
喧嘩をしたってキライになれない、ダイスキな声。
「…どンだけ喧嘩スたって構わねぇだ。どうせ喧嘩とおんなズ数だけ…仲直りもスっから」
「成る程な。なら初喧嘩で初仲直り…で、イイか?」
「まだ完全にはオッサンを許スてねっけど…」
マシュマロごと口に含むミルク。
甘さが増して本当にアツキ好みだけれど。
もっと、甘くて柔らかな。
「…ちゃんと新年の初キスばスてくれたら…許スだ」
「……へっ」
アツキが何故あれだけ怒ったのか。
理解したヒノケンは背中合わせを止めてアツキの方に身体を向け、一度その身体を毛布ごと抱き締めてやると、虎には程遠い可愛らしい鳴き声が上がり。
目を細め笑み、顔を上げさせて。
ゆっくりと、大切な相手へ贈る想いに満ちたキス。
ふんわりと甘いのはホットミルクだけのせいじゃない、虎になりたい背伸びの白猫は、何時だって甘くて愛しい存在なのだから。
"HAPPY NEW YEAR!"
■END■
◆2022年の初更新、まずはサクッとアツキにゃん。
今年は寅年だし22で常時にゃんにゃんしているのでアツキにゃんの年じゃないかと、年が明けてから年越しのお話を思い付いております(*´∀`*)
アツキにゃんは勿論、今年も書いていきたいですが。
自分が感じる色々なヒノアツを書きたいです◎
2022.01.03 了