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01



 毎度のことながらプラネタリウムにいるようだと、甘夏《あまなつ》紅美《くみ》は思う。どうやら指を切っていたらしいと気がついたのは、目の前の女の子、沖花《おきはな》つむぎが「くーちゃん血が出てるよ!」と騒いだからだ。いや、騒いだというよりは、驚いたといった方が正しいだろう。気づかなかったのかとその目が語っていたわけであるが、そのとおりだ。紅美は「あ、ほんとに?」とあっけらかんとしていたのだから。

 何度も言うが、紅美自身、切ったことにはまったく気がつなかった。そういえばと記憶を手繰り寄せ、ここに来る前に生徒会へ提出する書類――要はプリント――を持ったときに一瞬痛みが走ったかなと思い出したくらいで。

「治してあげるね」
「これぐらいならすぐに治るんだけど……」
「いいからいいから。くーちゃんがここに来たのが運の尽きだよ」
「なにそれ。様子を見に来るのは当たり前でしょ。【部長】なわけだし」
「私は【副部長】という立場です。部下には優しくするものなんです」
「いや、立場はそんなに変わらないから」
「んまっ、くーちゃんは鬼上司でしたか!」
「なんでよ!」

 わざとらしく肩を竦めるつむぎに対し、聞き捨てならないと言いたげに眉を寄せる紅美の手を引いたのはからかった張本人である。紅美も本気で怒っているわけではないが。つむぎは紅美をとイスへと座らせると、ふふんと得意げな顔をする。「【治す人】がここにいるんだから、ほいほい使えばいいんだよ」と。ひとりがけ用の丸型ソファーに座らされた紅美はといえば、「解った解った。じゃあ治してくれる?」と人差し指を差し出した。「当然ですよ」と笑うつむぎは傷口に【触れる】。

 ――とたん、紅美の視界を埋め尽くす【星空】にああと思う。これはプラネタリウムだと。どういう原理かは解らない。つむぎが【力を使う】ときはいつだって【星空】が現れる。ふたりがいる場所を包むかのような紺に染まる空のなか、幾重にも星が煌めく【星空】が。ときには流れ星だってあった。なぜだろうか。不思議でしょうがない。つむぎ自身はたいして気にしていないようだが、ここだけは気にするべきだ。
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