「なんでだ」
ポツリ、そう漏らしたけれど、今度は誰も教えてくれなかった。そのまま仕方なく席に着いて、授業が終わったら委員会の仕事の後、一人で帰った。コロネロが送ると言っていたが、部活の練習に行けと言って断った。気持ちに応えられないのだし、そこはきっちり線引きをした。
家に帰って部屋に入って、まず携帯を開いてメールをチェックした。学校では開かない携帯に入っているメールを、一つひとつチェックするのが日課だった。
一番新しいメールに、あいつの名前があるのを見つけて、急いで開く。午後をサボったあいつが、心配で仕方なかったから。
「五時に、カラオケ? なんだそりゃ、ってもうすぐ五時じゃん!!」
あいつからのメールは、ただの呼び出しメールだった。のんびり委員会の仕事をしていたので、時計の針はもうすぐ五時を指そうとしている。
ヤバい!あいつは一方的な呼び出しでも、遅れたらすんごく根にもつのだ。ねっちょり責める嫌みの言葉は、良心をちくちく刺す。そんなのごめんだ!
俺は慌てて財布と携帯と音楽プレーヤーを通学鞄に突っ込み、部屋を飛び出した。
「くっそ! 何なんだよ!」
愚痴も文句も垂れ流しながら、走る。また、走る。理不尽なのはあっちなのに、俺の気持ちはあいつが持っていってしまったから、走る。涙が出そうになる。自分のやってることが、馬鹿すぎて。
カラオケに着いたが、あいつの姿が見えない。必死こいて走ったというのに、と頬が膨れそうになった。
「何なんだよ……」
「お、来たか」
「リボーン……また。また急に呼び出して!」
柱の影からひょっこり現れたあいつに、怒りや焦りからくる文句を投げた。あいつは嫌な笑顔のまま、それをすり抜けた。
「ツナ、俺はこないだ何て言ったか覚えてるか?」
「はあ? 告白するっつったんだろ!? ……って、もうしたんじゃないの? 彼女放って良いのかよ!」
「俺は、んなこと一言も言ってねえ。告白は今からすんだよ」
「……はあ?」
今、から?
また、そんな。告白するのに、幼馴染でしかない俺を呼んで、付添いでもさせるつもりなのか。馬鹿野郎。俺はそんな場面見たら、泣く。絶対泣く。無理。
くるんとあいつに背を向けながら言う。
「告白するんなら俺はいらないだろ!? 帰る!」
本当に馬鹿野郎。泥棒。嫌みなやつ!
帰ろうとしたのに、あいつにしっかり腕を掴まれて帰れないし、くるんとまた向き合うことになった。
「待て。ツナ、お前がいなきゃ意味が無いだろうが」
「俺がいる意味が分かんないよ!」
「俺に独り言言ってろって言うのか、お前は」
「……はい?」
意味が、理解できない。え、俺がいないと独り言になるって、つまり、それは、告白の相手は俺ということだ。そして、告白ということは、え、えと、俺はまだ寝汚い夢の中の住民だっただろうか。
どういうことだ。ぽっかーんとして、あいつを見ると、相変わらず憎たらしい嫌みな笑顔のまま、俺を見ていた。とっても整っていて、いくら見ても飽きなくて、俺の幼馴染で、そして、ずっと一緒に居させて欲しいと強く願ってしまう人。その人が、俺を真っ直ぐ見て、告白をする。つまり、つまり、ダメツナの脳みそはもうとっくにパンクしている。答えは出ない。
「え……」
今、俺はとっても情けない声を上げただろう。とっても、とってもあいつに心全てが伝わるような声を上げた。その声を聞いたあいつは、さらににやっとした。
「俺は、お前に告白したかったんだぞ。ツナ」
「そ、こ。正直に、好きって言えよ。馬鹿」
ああ、全くもって不愉快だ。お前に告白したかったんだぞって、なんだそれ。そこはストレートに言ってくれた方が、嬉しかったんですけど。憎たらしい顔をして、もう全部持っていったくせに。こんなに喜んでしまっている俺自身が一番不愉快だよ。
そう、一番憎いのは自分。
「好きだぞ、ツナ」
「……ありがと」
「ツナ、そこは流されとくところだ」
「やだ」
好きだ、とぎゅうぎゅう苦しいくらいに抱きしめられて顔が見えないのをいいことに、俺は散々意地を張ってみせた。だって、フェアじゃないじゃないか。俺は(勝手に想像したのだけど)一日振り回されたのだから。
素直になるのは、また明日。
___end!
今日くらい、必死なお前を見てもいいだろ?
2011/11/18 睦月拝
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