その一週間後、俺はムカつく幼馴染みに強制的にカラオケに連れていかれた。あれから、バレたからと開き直っていろんなとこで歌ったりしたら、それをうっかり聞かれていろんな人にバレた。なんだかんだ心では信頼しているから、あいつが言うなら大丈夫、なんて思った結果だった。そんなだから今日は大人数かと思いきや、あいつは二人だけだぞと言う。あいつも、俺と一緒が気楽なんだろうか。
 部屋に入って、リモコンを渡される。そのまま、俺から曲を入れ歌い始めた。

「きっと、伝わるよ」

 歌は心を表すもの、だと俺は思う。ロックやパンクも、表してるのは心の叫び。俺が歌う歌は、どれもこれも悩んでいる。
 この前、あいつがあんなに焦がれる相手への歌を聞かされ、俺は謎の焦燥を感じていた。あいつがあんなに焦がれてるんだから、きっと相手も優しくて良い人なんだろう。そんなあいつが、想いをその人に告げたら、この関係は簡単に崩れてゆく。嫌だ。嫌だ。でも、あいつの幸せだし、そもそも俺が望んでいたことなのに、なんで。
 想像以上に歌に入り込んでいた。あいつは、次の曲を入れずに俺を見た。あまりにじっと見るものだから、顔を背けて言う。

「おい、俺を見て何が面白いんだよ」
「いや、ツナ。お前、恋してるのか?」

 お前はエスパーか、と言いかけたのを我慢した俺を、誰か褒めてくれ。
 当たっていないけど、間違えてもいないなんて、ここまで分かるやつは多分こいつしかいない。

「り、リボーンには関係ないだろ!」
「ふん、ならあれ歌ってみろ」
「ヤダよ」

 あんな熱烈なバラードを、何故お前に歌わないといけないんだ。だいたい、俺は恋してるんじゃなくて、その、寂しかっただけなのだ。

「なら、相手を俺だと仮定すりゃいい」
「は?」
「俺だと仮定して、俺を惚れさせてみろ」

 そもそも、恋してるんじゃない。そう言いたかったのに、上手く言葉が出てこない。出てこない代わりに、俺は何故だか喧嘩腰で答えてしまった。

「こ、後悔すんなよ!」
 全く、俺は何がしたいんだ。
「面白いな。させてみろ」

 自信たっぷりに答えるあいつは、完璧に悪ノリしていることが分かる。俺もひくにひけず、仕方なくまたあの歌を歌う。
 離れてしまったら、そう考えたら寂しさで壊れてしまうかもしれない。こうして馬鹿騒ぎすることも、つきっきりで勉強を見てもらうこともなくなる。たまの我が儘を聞いてもらうこともなくなる。それは当たり前のことで、いつかなくなることは知ってたはずだった。でも、俺の中で大きい存在になって、手放したくないなんて思ったんだ。馬鹿みたいだ。この関係が、ここまで続いてるだけでも、奇跡みたいなもんなのに。
 どうして、歌に心をのせるんだろうか。ずっと歌ってきて、最近やっと理解した。言いようのない心を、昇華させるためなのだと。本当に、俺は神様に好かれてないみたいだ。

「終わった……」

 思わず、歌い終えた満足感から呟いた。あいつは相変わらず、嫌な笑顔なのかな。そう思って視線をやると、何故か眉間に皺を寄せているあいつの綺麗な顔。下手くそだったのだろうか。

「リボーン? 下手、だった?」
「ツナ。そいつは、誰なんだ?」

 質問に質問で返された。が、よく分からない。俺はただ、恋してるわけじゃなくて、寂しくて不安だっただけなんだから。
 なんて答えれば、笑ってくれるんだろう。

「はは、好きな人なんていないよ? 何言ってんのさ」
「俺には、言えない相手なのか」
「違う! 馬鹿リボーン! 本当に違うんだってば、俺は」
 俺は、何であいつが離れてくのが嫌なんだろう。
「は! 嘘も下手くそだな。そんなに信用ねえか俺は。分かった」
「ま、待ってよ! 本当だってば!」

 リボーンは鞄を掴んで部屋を飛び出し、あっという間に行ってしまった。一人残され、とりあえずすぐさま俺も会計を済まし、後を追う。
 意外にもその後歩いていたあいつは、すぐに見つかった。

「リボーン」

 名前を呼ぶと、あいつはくるんとこっちを向いた。どうやら、話してくれるようだ。

「悪かった。金、いくらだった?」
「七百と三十五」
「ああ、七百と……これで」

 ぴったり渡された小銭を財布にしまって、俺は言う。

「ね、俺はお前を信頼してるし、嘘ついてないよ。本当に、今好きな人なんていないしさ」
「ああ」

 俺は嘘ついてヒヤヒヤしながら暮らすなんて方が、無駄だと思ってるしさ。

「リボーンだって、俺を信頼してくれてるだろ? なら、ちゃんと俺の話聞いてよ」
「……悪かった」

 今度こそ分かってくれたようで、ちょっとしゅんとしたように見えた。それで満足したから、俺は軽く体当たりした。

「えーい」
「なんだよ」

 気にするなんてらしくない。いつもみたいに自信たっぷりに、俺をからかえよ。

「今日は満足できなかったから、今度はちゃんと歌わせろよ」
「本当に、歌ばっかだな」
「うっせー! 俺の歌を聴けー!」
「それ、キー高いだろ」

 確かに高いけど歌い上げたら気持ち良いんだよ。と、ここまできたら軽口を叩き合っていた。そのまま家に着くと、入る前にもう一度謝られた。なんだよ、本当にこいつ水くさい。


___to be continued
 あれだ。あれ、困ったら助け合いさせろよ。バーカ。

2011/11/10 睦月拝

 




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