年が明けた。また新しい一年となるわけだ。テレビでは新年の抱負を語る芸能人が、隣にはお菓子を食べて寝てしまった恋人がいる。最近、忙しくてよく眠れていなかったと本人が言っていたし、俺の部屋はリボーンがいるとき誰も入ってこないのだからと、無理やり寝かせた。やっぱり眠かったのだろう。さっきから頬をつついても、ちっとも起きる気配がない。顔からして疲れていることは知っていたが、疲れているのなら俺に合わせて電話やメールをしなければ良かったのに。
 まあ、そこまで俺が大人になれていないから、というリボーンの気遣いだったのかな。もうこの歳になって、そんな我が侭をいった覚えはないのだが。大人になれていないという自覚はある。どうも上手く立ち回れなかったり、飲み込まなければいけないことが増えたり。流さなければいけないのは分かっているが、簡単に流せるようにはなれない。そんな話を聞いてもらっていた。ああ、大人になるって面倒にしか思えない。顔が広くなるほどに突き刺さる普通の文字。こうやって一緒に年を越せたのも、リボーンがリボーンだったからだ。俺には、もったいないくらいの大好きな人。
 いつまでも起きていても仕方ないし、と隣に潜った。すっかりリボーンの体温で布団の中は暖かい。見ているやつもいないから存分ににやけてから、ゆっくりと夢の中に落ちていった。

 朝の六時、元旦はみんな早起きだ。母さんに言われて設定しておいた目覚ましが、俺たちを起こそうと体を震わせていた。いつでも元気だなあ、と思いながら目覚ましを止めた。リボーンは音で一瞬起きたが、一層深く布団に潜り寝ようとしていた。付き合い始めは起こされてばかりだったが、どうやら元々寝起きが悪いらしく、この行動はもう見慣れていた。今日はいろいろしなければならないから、寝かせてやれない。軽く体を揺って呼びかける。

「リボーン? 起きてー。ね、起きてよ」
「んー……ん」
「起きてくれたら、ね? それでも起きない?」

 多分、頭で段々理解し始めたはずだ。さっきの言葉で、リボーンの抵抗が弱くなった。もう一息。

「ね、俺リボーンいないと寂しい……起きて?」
「……ん」

もぞもぞし始めたから、もう起きるだろう。俺はとっとと離れて、洗面所に急いだ。床はひやっと足をつつく。水は容赦なく顔を引き締める。冬の洗面所で顔を洗うのは、毎回億劫になる。しかたない、けどね。

「ヒィ〜! 冷たい!」
「あらあら、おはよう。冷たいわよねえ、冬は」
「母さん、おはよう。あとで手伝いにいくよ」
「まあ、助かるわ。後でね」

 母さんと軽く話してから、もう一度部屋へ行く。リボーンは猫みたいに伸びをして、何回も瞬きしていた。二度寝していないのを確かめて、布団を片付ける。

「あ、わるい。俺がやる」
「声が寝てるよ。カッコいいけどさ。いいから、ゆっくり起きて。とりあえず、顔洗ってから下りておいでよ。ね?」
「……そうする」

 こんなに朝に弱いのに、最初は気を張ってたのがよく分かる。まだ眠そうな目をしたリボーンは、俺が言うまま洗面所にゆっくり歩いていった。本当に、可愛らしい。こんなことを思うのはきっと俺だけなのだろうけれど。
 一足先にキッチンに行くともうお餅だけの状態だったから、テーブルを拭いてお箸とグラスを並べた。並べ終わると母さんがほいほいとお雑煮を渡してくれる。お決まり、の席に並べて最後の来賓の到着を待った。
 座ったところで、もう入ってきたのは置いといて。

「さ、リボーンくんも座っちゃって! ツっ君の隣、ね」
「あ、すみません。お待たせしたみたいで」
「あら、さっき用意したばかりよ。ほら、新年なんだし座って座って」
「リボーン、ほら」

 隣の椅子を叩いて、リボーンを呼んだ。おずおずと座るのはしかたない。そんなことより、顔を洗ってきたリボーンもかっこいいと思いながら横顔を見ていた。多分、後で口を滑らせてしまいそうだと思った。
 リボーンが座って、揃ったところでやっと母さんがいう。そして俺たちも応えた。

「明けましておめでとう。ツっ君、リボーン君」
「おめでとう、母さん。リボーン」
「おめでとうございます、奈々さん。ツナ。今年もよろしくお願いします」
「あらあら、ありがとう。リボーン君」
「俺もよろしく、ほんとにね」

 喧嘩したり仲直りしたり忙しいけど、ね。これだけ一緒にいれるんだから、なんかあるかもね。そんなことは絶対口に出したりしないけど、多分、来年も一緒だと思うよ。
 一緒に「いただきます」をして、「ごちそうさま」を初めて言ったときから、そこは変わらないままなんだ。きっと、気付いていないと思うけど。


___恭賀新年
2012/01/01 睦月拝



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