今日は、恋人たちが愛を囁き合うクリスマスらしいが、生憎俺の家は家族で祝う日となっているし、リボーンはリボーンで昼間は忙しく、夜は沢田家のパーティに来ると言っていた。いろいろあるが恋人同士という括りになったのだから、なんて甘い出来事はないまま予定は決定していた。
 携帯でメールをして、今日はクリスマスだねとちょっとシンプルなメールを送ると、パーティを楽しみにしてろよと、リボーンらしいメールが返ってきてにやけた。多分ね、と曖昧な返事をしたら、覚悟しておけよと怒った顔のデコ文字。ちょっとやりすぎたかな、なんて思いながらも顔はにやけたままだ。
 リビングから自分を呼ぶ声が聞こえて、今日はお手伝いの一日だったなと思い出す。急いで自分の部屋からリビングへ行くと、母親が買い物バッグと財布を持って待っていた。

「どうしたの? 買い物?」
「そう、今日の食材ね。母さんは準備で忙しいから、つっ君にお願いできるかしら」
「そういうことなら。何かってこればいいの?」
「これに書いておいたわ。ありがとう、お願いね!」

 買い物リストを受け取り、コートとマフラーと手袋の重装備で外に出た。はあっと息を吐けば白が、足を強く踏み込めばパリッと割れる音がする。息をするたびに、体の奥から体温が下がっていく感覚がする。長居をすれば、風邪をひいてしまいそうだと思い、急いで近所のスーパーに向かった。
 自動ドアをくぐれば、むわっとした温かい空気が俺を出迎える。手袋を外し、買い物リストを片手に食料品売り場へと足を進めた。
 食料品売り場にはクリスマスの午前中だからか、買い物客がたくさんカートを押していた。主に主婦やお婆さんだ。家族連れの男性もちらほら見えるし、両親にお菓子をねだる子供の姿もある。小さいころは、自分もお菓子をねだって困らせたりしたなあ。微笑ましいと感じつつ、買い物リストの食材をカゴに入れていく。クリスマスだから売り場は美味しそうな肉の匂いでいっぱいになっていたが、首を振って誘惑を断ち切った。リストを三回確認してからレジへ向かい、会計を済ませて帰ろうとしたときだった。
 視界の端に見えた黒。少し遠かったけれど、確かに俺の、リボーン。心の端に残る可能性を信じて、恐る恐る近づいていく。真後ろにきて、飛びつきたい背中が見えた。その隣にいた黒髪の女の子の姿も見えた。
 なあんだ。
 俺は右手薬指に嵌っていた指輪を抜くと、彼に声をかけた。

「よ、こんなとこで会うなんて偶然じゃん。あれ、彼女と一緒? あはは、邪魔してごめんねー。別に男に飽きたなら飽きたって言ってくれればよかったのになあ。返すね、これ。メリークリスマス」
「…………ツナ! ま、待て!」

 指輪を無理やり握らせて、そのまま走り去った。
 家に帰って、買い物バッグと財布を母さんに渡した。次は作るのを手伝って欲しいと言われ、いつものエプロンを着るために部屋に戻った。ベッドの上に放ったままの携帯がちかちか光っていた。携帯を無視してキッチンに行き、手伝いを始めた。
 肉の下処理や、チキンに下味をつけたりしていると、時間はあっという間に過ぎた。窓の外を見ると、高く昇っていた太陽が沈み、外は真っ暗になっていた。もうすぐパーティが始まるからと手伝いは終わり、部屋で着替えてからやっと携帯を開いた。
 不在着信が二十三回、未読メールは六十七。用事があって忙しいはずなのに、と思うと笑えてきてしまう。もちろんリボーンから一番来ていたが、それを無視して友人たちに返信していく。コロネロのメールは熱烈なラブレターになっていたことに驚き、丁寧に返信した。スカルからは心配のし過ぎでいろいろ間違えているメール。他にも俺を案ずるものばかりで、愛されていることに嬉しくなった。
 パーティの時間が近付き、コロネロがやってきた。一人暮らしだから、と誘ったのだ。母さんはリボーンよりコロネロが先に来たことに少し驚いていた。コロネロをリビングに案内し、チビ達と一緒にお話に付き合ってもらった。
 十五分後、ぎりぎりにきたリボーンをむりやり座らせて、パーティは始まった。コロネロ、リボーンにはサンタの帽子も被らせた。俺はサンタの服を着て料理を運んだ。みんながグラスを持ったのを確かめた。

「さ、始めようか。メリークリスマス!」
「「メリークリスマス!」」

 みんなで乾杯し終わると、たくさんの料理は次々なくなっていく。育ちざかりが三人も揃ったのだから当然なのかもしれない。母さんはその様子を見て嬉しそうに笑っていた。
 料理が無くなってケーキを切り分け、そんな時間もすぐ終わってしまった。人数が多いし、ケーキはチビ達優先だからだ。ああ、パーティもお開きだ。
 プレゼントなどは適当に渡しあう、ということになっているからパーティが始まる前にほとんど交換し終えていた。やだなあ、やだなあと思いつつリボーンの隣に座ると、非常に不安そうな顔で俺を見てきた。
 周りは自由に騒いでいるのを確かめてから、リボーンに話しかけた。

「メリークリスマス、リボーン」
「メリー……ツナ」
「なあに?」
「今日一緒にいたのは、幼馴染で、浮気なんかじゃ」
「知ってる、けど」

 言い訳を言おうとしているから、正直にそう言った。リボーンは目を見開いてこっちを向いた。普段の目もかっこいいけど、本当に好きだとどんな顔してもよく映る。

「え、は……はあ!?」
「あっはははは! カッコいい!」
「どういう、え?」
「ラルさんでしょ。知ってたよ。だって母さんの知り合いだもん」
「え、じゃあ。じゃあ、指輪は」

 慌てるリボーンに、ポケットから取り出した本物を見せた。リボーンはまた目を大きくさせていた。本物を突っ返すなんてするわけがない。これはラルさんがリボーンが本気か知りたいと言ってやったことだ。前日に玩具の指輪を渡された時こそびっくりしたが、俺の中に不安がなかったわけでもない。 事情を知ったリボーンは、ため息を吐いてしばしへこんでいた。

「ね、もう一度、俺にはめてくれる? 俺たちの、指輪」

 リボーンはため息を吐いたが、その顔はいつも以上にかっこいい真剣な表情で、俺の指輪をそっと受け取ってくれた。

「もう、こんな心臓に悪いことしないでくれ。愛してる、ツナ」
「ん。俺も、好き。冗談でも浮気できる、なんて言ったら今度は本当に指輪突っ返す」
「……はい」

 抱きしめられて、とてもいい雰囲気になったところで本音をぽつり。案の定リボーンは顔を青くしていた。キスどころではなくなったのだろう。鞄を探り始めた。
 そう、もともとこれを実行しようと思ったのは、依然の喧嘩が原因。冗談でリボーンが言った一言だった。なにもなくてこんなことはできない。まあ、ちょっとやりすぎてしまったような気もする。だから。俺も背中に隠していたものを。

「ツナ、メリークリスマス。受け取ってくれ」
「俺からも、メリークリスマス。どうぞ!」

 リボーンからのプレゼントを受け取って、俺からのも渡す。
リボーンはため息を吐いて、ぎゅうっと俺を抱きしめてくれた。小さい子が母親に縋るみたいな仕草に、ちょっと罪悪感が湧く。ごめんねと大好きを耳元で繰り返して、背中を撫でた。
 あんなことを言われようが許してしまうのだから、全く俺も同じくらい馬鹿なのだ。好きで好きで、でも侮ればいつだって噛みつけると分かって欲しかった。俺は、離れたくないし離すつもりがないのだ。本気で、ずっとずっと。
 たとえ今だけだとしても、その瞬間は何より強い執着を見せつけて、引きずってしまえばいい。もう、そのくらい溺れているのだから、お前も溺れさせてあげる。
 なんて、ちょっとらしくないか。

2011/12/25 睦月拝


 




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