惚れたもの勝ち
屋上には爽やかな風が吹き、見上げると一面は青空。
「いきなり呼び出してなんなわけ」
目の前には面倒くさそうにしている恋人。
頼むからそういう表情はやめろ。
「ちょっと話したいことがあってな」
「ふーん。リボーンからなんて珍しい。わざわざオレを呼びだしたんだからつまんないことじゃないよね」
「だいたいお前、呼んでも来ないときあるだろ」
「それはメール見てなかっただけだよ」
「メールくらい見てくれ。心配するから」
なんだか風がひやりとしだした。
もちろんこういう話がしたいわけではない。
オレは去年の今頃、ちょうど11ヶ月前を思い出した。
「ツナ、渡したいもんがあるんだ」
「…へぇ? ちょうだい」
そんなお菓子をねだるように軽々しく手を出すな。
ちょっとはムードが欲しいんだよ、こっちは。
何にも知らないにしても空気くらいは読んでくれ。
それがツナには無理なことが今までで思い知ってはいるんだが。
オレは咳払いをしてツナの掌を裏返した。
「お前は嫌がるかもしれねぇって思って今まで敬遠してたけど、もういいかと思って。この意味わかるよな?」
薬指にシルバーリングをはめた。
定番過ぎて、恥ずかしいかもしれない。
こんなものを自分からプレゼントしたのはコイツが初めてだ。
ツナは一瞬固まったが、やっと状況が飲み込めたらしい。
照れたのか顔をうずくめてその場にしゃがみ込んだ。
「…なんか、リボーンってさ、オレに嫌われないように頑張り過ぎて空回りするよね」
「はぁ?」
「こういうのは、嫌じゃない。むしろずっと欲しかったし…、半年経ったくらいにくれないのかなって諦めてたし。一年記念日にこれって…待ちくたびれた」
ツナがそう言って顔を上げた。
頬が赤らんでるのがわかった。
「でも嬉しいんならいいだろ。待って嬉しさも一入ってやつだ」
「意味わかんないし。それに別にオレは嬉しいとは言ってない」
つんっと顔を反らされた。
変なところで強がるところは変わってない。
「嬉しくないのか?」
我ながら嫌な質問だと思いながら尋ねてみる。
ツナは思った通り眉をひそめたが、簡単に折れてはくれない。
「そんくらい自分で考えれば」
「じゃあ嬉しいってことで」
そう言いながらオレが隣に座り込むとツナはこちらをちらっと見てつまらなそうに唇を尖らせた。
膝を抱えるツナの左手にはシンプルなリングが光っていて、よく似合うと思った。
「それ、気に入ったか?」
「悪くはないんじゃない」
「相変わらずひねくれてんな」
「それでいいよ。だってリボーンってこういうオレが好きなんじゃないの」
「…まぁな」
風が髪をなびかせていく。
じっとしていたら寒いくらいだ。
少し冷たくなったツナの手を取ると指が絡められる。
そしてじっと見つめられる。
「今まで一年間ありがとう。リボーンを好きになれて良かった。これからもよろしく」
はにかんだように笑った。
ツナの精一杯の笑顔だ。
「…こちらこそ」
ぶっきらぼうになったのは仕方ない。
普段がああだから時々見せるこういう表情にやられる。
「あ、リボーンが照れてる」
「うるさい。不意にかわいいこと言うんじゃねぇ」
「一年記念サービス。嬉しいだろ?」
「まぁ…」
「次は来年な」
「間が長ぇよ」
「当たり前だろ。いつもこんなこと言ってたらストレスで死ぬ」
からかうように笑うところもかわいいだなんてオレも相当やられてんな。
いやツナと付き合ってる時点で既にか。
「まぁいい。もっと言いたくなるようにしてやる」
「出来るならしてみてよ」
挑戦的で、生意気で。
時々むかつくがそういうツナがいいんだから仕方ない。
しおらしいこいつなんて一緒にいてきっとつまらない。
惚れた欲目かもしれないが、他には絶対渡したくないくらいだ。
オレは嫌そうな顔をされるのを覚悟で甘い声で耳元に言葉を落とした。
返ってきた反応は意外だったが嬉しかったのでオレは笑ってやった。
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oval BAの雨宮さんに、相互記念に書いていただきました!
雨宮さんのお宅にあるギャンブラーが好きで、その二人を!とかなり我が侭なリクエストをしたにも関わらず、こんなに素敵なものを書いていただきありがとうございます。
このプラトニックで素直じゃない二人が可愛くてかわいくて!いつまでもこんな風でいてくださいなんて思っちゃいました。
このたびは相互ありがとうございました^^
こちらこそよろしくお願いします。
2011/11/01 睦月