へたれだねさわだくん
「あ、おはよう。ツナ君!」
「お、おはよ。京子ちゃん」
朝一番、偶然京子ちゃんに会えるなんて!
「今日も良い天気だね。あ」
「どうしたの?」
「今度ね。お兄ちゃんの試合、応援に行くんだ」
「へえ、お兄さん強いから、きっと勝てるんじゃないかな」
お兄さん、強いとかそういうレベルじゃないけどね。
「それで、一緒に応援、行かない?」
「へっ、あ、えっと行く! 行かせていただきます!」
まさか、また誘ってもらえるなんて思わなかった!これで、試合二十三回くらい見に行ったなぁ。
「ホント? ありがとう! 一人で会場に行くの、心細かったんだ」
「全然、気にしないでよ。俺も行きたかったしさ」
最近はちょっとボクシングを覚えて、見るのが楽しくなったから嘘じゃない。
「じゃあ、今度の日曜日、八時に家に来て?」
「分かった。日曜日楽しみにしてるよ」
「……やったぁあ!」
京子ちゃんが見えないところで、俺は密かにガッツポーズした。
「沢田って鈍感?」
「鈍感ってかへたれってか」
「何回目だよ。試合口実のデート」
「私が知ってるだけで二十超えてるわ」
「ダメが抜けたと思ったのに」
「……ダメツナ健在ね」
「なー」
まさかこんな会話が繰り広げられていたと知るのは、だいぶ先のことになる。
__
ダメツナは鈍感でへたれだから、気付かないし、京子ちゃんも天然で気付かないっていうお話。