人のために、ということが苦手だった。昔から自分がしたことは裏目裏目、結局ダメと言われて終わる。だから、歌を歌うという趣味が見つかったときも、誰にも言わなかった。幼馴染であったリボーンにもだ。馬鹿にはしないのを知っていたけれど、何故か言えなかった。どこかで、笑われることに恐怖していた。なのに、なのに。

「これ、歌え」
「何を言っているんだお前は。それはなんだ、そして俺はカラオケ以外で歌わない!!」
「却下を却下だ。試しだ、歌え。録音は俺の家、完成したと思ったら言え。以上だ」
「え、いやあの、家に逃げるなよおおお!」

 約ひと月前の自宅前で起きた出来事だ。楽譜とデモ音源を渡されて、そのまま家に逃げ込まれた。一週間後から「完成したか?」と質問責め。やっとの思いでとりあえず歌えるようにはしたが、訳が分からないまま連絡をしていない。
 渡された曲は俺が得意なロックで、歌うことにそこまで苦労はしなかった。だが、前述のように人のためにすることが苦手という意識が、歌えるようになるのを邪魔した。リボーンに渡された曲を、中途半端に歌うなんてできなくて、俺のスキルの低さを嘆いたりしたのだ。後は連絡するだけ、それができなくて、さっきから携帯を持ちながら部屋の中をぐるぐる歩き回っていた。
 やっぱり無理!そう思って、携帯を放りデモ音源を再生して歌う。確かめるように、言い聞かせるように。
 歌詞の内容は思っていた以上に甘ったるいラブソング。身を焦がす恋を伝えたい少年の叫び、今にぴったりのような気がした。怖くて、でも言いたくて、言えないまま。笑わないでくれるだろうか。受け止めてくれるだろうか。それとも、悪い結果だろうか。繰り返し繰り返し歌って、気付けば喉が涸れていた。
 歌うのに疲れてベッドに転がったタイミングで、都合よく携帯がリボーンからの着信で震えた。タイミングが良すぎる、と言いながらも携帯を手に取った。

「もしもーし? どうしたのリボーンさんやー」
「ツナさん、歌うときは窓閉めないと……いけないんじゃねえかい?」

 言われてハッと起き上がる。窓を見れば、開けっ放しの窓からリボーンのしたり顔が見えた。しまった、完璧にやっちまった。俺はまたベッドに寝転んだ。幼馴染で家が隣という事実を忘れていたなんて、流石俺。ドジもここまでくると、何もできない。
 もう一度起き上がって、今度は文句を言った。

「聞いてたのかよ! バカっ、アホっ、意地悪ぅっ!」
「いや、窓開けたまま歌うなんてな。想像以上のドジっぷりのおかげでいいもんが聴けたぞ。練習してくれてたんだな。無茶振りしてた自覚はあったってのに」
「や、だって……あんな催促されたし、歌いやすかったし、暇だったし」

 それだけ、本当にそれだけだ。そう言ったけれど、リボーンには伝わっているから、相変わらずかっこいい顔でにやにやしている。似合っているから、それがムカついてしかたない。
 膨れた俺をよそに、リボーンはうんうんと頷いて言う。

「思ってた以上の出来だ。これなら頼めそうだな。ツナ、ボーカルやってくれ」
「……いま、なんと仰いました?」
「だから、ボーカル。バンド」
「バンド……? ぼうかる?」

 咀嚼するように言い直すが、頭に入らなくてまた聞いた。

「ボーカル、俺が、ボー、カル……えーっと。もう一度お願いできる? 聞き間違い?」
「俺のバンドのボーカル。やってくれ。こればっかりは無理強いできねえから、却下は有りだぞ」

 リボーンは却下有り、と最初からないも同然の選択肢を投げてまで、ちょっと不安そうな顔をする。どうせ、それは表情だけで俺がイエスっていうのを分かってると思うのに、なんでこう思ってしまうんだろう。
 本当に。

「ははっ。いーよ。もう、そんな顔されたらノーなんて言えないじゃん。でも、きっとダメダメで失敗もするよ?」
「大丈夫だ。俺が練習付き合ってやるからな」
「やっぱり分かってたんじゃん」

 いいよ、と言った途端に自信満々のリボーンがすっかり戻ってきている。楽譜を握って熱く語りだしたリボーンを見て、ため息を吐いた。理由を聞かれたけれど、言わなかった。きっと、いつか伝わってしまうだろう。俺の感情は、歌を聞けばわかるって言うのだから。

___end?
2012/01/13 睦月拝




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