最近あいつがいないなあ、とペンでノートをぺしぺし叩きながら思った。メールをして聞いてみたいが、そんなに仲がいいわけでないから、と億劫になった。構ってもらえないからつまらないけど、体調を崩していたらメールはかえって迷惑だろうし。人間って面倒くさいなあ。
 溜め息を吐くと、いつの間にかそばに来ていた(この人はいつも俺の知らない間に近付いてくる)獄寺君が、どうかなさいましたか?なんて聞いてくる。いい加減敬語を止めてくれと言ったが、どうやら墨のシミのように離れないくらいの癖になってしまったようだ。ぼーっと返事をするのを忘れていたら、心配そうに名前を呼ばれた。ああ、そんな顔はしないでよ。させたのは俺かもしれないが。

「ごめんごめん。ちょっとぼーっとしてた」
「そうでしたか。体調が優れないのなら仰ってくださいね?」
「うん、わかってる。君こそ無理はしないでよ」
「わかっています、十代目」

 と、そのタイミングで獄寺君の携帯が鳴り、用事ができた彼はどこかへ消えてしまった。
 うーん、やっぱりメールしようかな。携帯を開いて、アドレスを呼び出す。数件しか入っていないアドレス帳の最後の名前を、ぽちっと選ぶ。立ち上がったメール画面に、とりあえず二三書いて送ってみた。
 チャイムがなって、慌てて携帯を引き出しの中に隠し、サイレントにする。数学担当の教師が、けだるさを引きずりながら出席をとりはじめる。

「沢田ー」
「はい」
「清水ー」
「へーい」

 出席確認が終わったのを確かめて、携帯を覗く。受信を知らせるマークが待ち受けに出ていたのを見て、すぐにメールを開いた。

『久しぶり。ちょっと熱出してたんだ。心配したか?』
「……なーんだ」

 嫌いになったとか、他の人と連んでいたのかと思った。ちょっとほっとして、教師が黒板と向き合っている間に、素早く返信をする。

『コロネロと遊んでるのかと思ってただけ。風邪かな。お大事に、じゃ』
「で、あるから、この数列は数学的帰納法によりn+1の」
『あいつは部活馬鹿だぞ。ああ、風邪らしい。なんだよ、来いよ!』
「と、なって証明できる。次に」
『ヤダよ。風邪うつったらどーすんの。バーカ』
「この問題を、獄寺!」
「はあ」
『うつさせろよ。つまんねぇんだぞ』
「正解だ。戻っていいぞー。じゃあ、解説するからな」
『次の風邪は行くよ。多分ね。』

 教師そっちのけでメールをする。次の風邪は、あっちから教えてくれたらお見舞いに行こうか。つまらない、と言われてちょっと嬉しかったから。本格的な友だちみたいじゃん、と思って勝手に決めていた。教師がチラッと見てきて、慌ててノートを書いた。でも、ダメな俺の頭に内容はちっとも入ってきやしなかった。まあ、あいつにまた教えもらおう。また、勝手に決めていた。

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2011/12/13 睦月拝




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