03


 綱吉が応接室に通い詰め始めて一週間。雲雀はそろそろいいだろう、と綱吉に手合せを申し込んだ。綱吉は二つ返事で了承し、じゃあ放課後屋上ねとまた難しそうな本に視線を戻した。
 一週間、本当に勝手に勉強がしたかったらしい綱吉は、どこからか難しそうな本を読み、ルーズリーフに書き込んでは唸り、そんなことをずっと繰り返している。一応頭がいい方だと自負している雲雀だったが、綱吉の読んでいる本はちらりと見ても全くわけのわからないものだった。綱吉のチープなスペックは知っていたが、と雲雀は驚いた。
 応接室なら彼の家庭教師も覗けないし、彼は秘密がばれることもない。しかし、こう応接室に通い詰めていて問い詰められないのだろうか。彼は口からでまかせを言うのが上手いけれど、そんなに甘い奴じゃないのも事実である。

「ねぇ、綱吉。彼はどうやって言いくるめたんだい?」
「んー……恭弥が体術、草壁さんが勉強をしばらく見てくれるから通うって」
 ああ、僕が体術ね。雲雀の声に綱吉は言葉を続けた。
「そ。で、一週間分の課題をここで見てもらって、アイツがチェックするってことになってる」
 その課題とやらは、きっと初日に見た紙束のことだろうと雲雀は思った。様子を見るという名目で一時間、草壁に教えてもらっているふりをしていたのを雲雀は見た。

「って言うか、君は何を勉強しているわけ。まず何語?」
「え。これはプログラミングとフランス語と、数か国分の法律書ですが……」
「フランス語は分かるけど、プログラミングやセキュリティーに加えて法務、言語だけで英語にロシア語にイタリア語、ラテンにドイツ語に中国語もやってなかったかい」
 そう、やっている量が凄まじいのだ。一週間で応接室を本で埋め尽くすつもりか、と雲雀が言いたくなってしまうほどに。こんなに学んで何に使うのか。雲雀には一つしか思い浮かばなかった。
 綱吉が口を開く前に雲雀は問うた。
「君は、僕を、置いていくつもり。そんなの許さないんだからね」
 いや、答えは一つしかない問だったが。

 綱吉は困った様に笑って、言う。
「恭弥には、分かってたんだね」
「当たり前でしょ。君は頑固なんだから」
 そう、彼がここまでするのはただ一つの目的のため。それが分かっているからこそ、ここを貸したのだ。
「仕方ないなぁ。恭くんも、頑固だから」
 そういって嬉しそうに笑う綱吉に、雲雀は久しぶりに幼馴染の綱吉に会えたと思った。



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