聖なる夜に騒ぎましょう





 聖夜だろうと、この世界は時間が止まるわけでもなく、今日も闇の稼業は順調だ。ただ、昔からこの日くらいはと思い、みんな夜には帰れるように調節しておいた。また甘いなあと言われるかもしれないが、俺が大好きなみんなに甘いのは当たり前なことだと思う。
 その代り、というか。俺の仕事は想像以上に膨らんで、時計はもう十八時を指そうとしているのに、仕事は終わりそうにない。もうすぐ、リボーンも帰ってきてしまう。この状態を見れば、みんなここにきて俺の手伝いをしようとするだろう。それでは意味がない。
 ばしん、と頬を叩いて気合を入れた。ちょっとスピードを上げれば、あと少しで終わるはずだ。

 最後の一枚を処理し終えたところで、リボーンはタイミングよく執務室に入ってきた。確か、要人警護の依頼を回したはずだ。仕事を終えたリボーンの顔は、不機嫌と顔にでかでかと書かれていた。

「おかえりなさい。リボーン」
「……ああ、ほれ」

 いつもはきちんと渡す報告書も、投げるように渡してソファーにどかっと座る。これは、相当よろしくないみたいだ。
 報告書は机に置いて、リボーンの隣に腰掛けた。

「報告書ね。ありがとう、おつかれさま。どうしたの? 随分と、不機嫌そうだ」
「不機嫌にも、なる。……なあ、抱きしめていいか」
「どうぞ」

 抱きしめられてその理由がよく分かった。恐らく要人警護のお嬢さんに引っ付かれたのだ。ふわりと香る甘ったるい香水と化粧品が、その凄さを語っていた。濃い化粧品の匂いは、リボーンが苦手としているものだ。精神的な嫌がらせやらには決して屈したりしないが、どうも匂いはくるらしい。こうなれば、しばらくは立ち直れないだろう。
 いつもなら俺の了解もなしに、最後までするくせに。そう考えると、こういう時間が貴重だと感じる。こんなふうに、いろんなリボーンを見せてくれるなんて、昔なら考えられなかった。スパルタを超えたスパルタ修行だったり、契約だからと去って行こうとするのを必死に止めたことも。リボーンがいなかったら、きっとこんな自分を知らずに生きてきた。
 のんびり他事を考えていると、もうリボーンが返ってきてから三十分たったと時計が知らせてくる。そろそろ、みんながここにきて俺を呼びにくるだろう。そろそろだよ、と伝えるとさっきよりはマシになった顔を見せてくれた。

「十代目! クリスマスですっ」
「はいはい。分かってるよ、獄寺君。さ、リボーン」
「ああ」

 うきうきとしている獄寺君に案内されるまま会場へ入ると、みんな帽子を被ったりして俺たちを待っていた。
 雲雀さんは相変わらずの着物姿、山本は野球のユニフォーム、骸は何故かヴァンパイアの仮装、みんな思い思いの服装だ。骸はよく分からなかったが。クロームはお決まりなサンタクロースの恰好で、真っ先にプレゼントを渡しに来てくれた。

「ボス、これ……。メリー、クリスマス」
「ありがとうクローム。俺のプレゼントは、気に入ってくれたかな」
「うん! 可愛い服、いっぱい……ありがとう」
「どういたしまして。さ、楽しんでおいで」

 こくん、と頷くとクロームは骸の、ではなく女の子たちのところへ行った。仲良くなった証拠だろう。骸は寂しそうに見ていたが。
 守護者のみんなもそれぞれプレゼントを交換しあっていた。さすが、なにか変なプレゼントがたくさんあった。雲雀さんは高そうな着物だったり、山本はバットだし、獄寺君は毎年恒例の獄寺印のUMA図鑑で、骸はチョコレートと制服コレクション2011バージョンだ。何に使うのか全く分からない。
 そんな個性の強いプレゼントたちが贈られるのが、とても嬉しいのに変わりないのだが。最近はなんだか、本当に家族みたいに思えている。それはみんな同じなのかもと思う。山本と獄寺君は何かとぶつかったりしていたが、最近はお互い得意分野を任せて仕事していた。雲雀さんは相変わらず一匹オオカミな面が強いが、頑張って歩み寄ってくれるし、骸と喧嘩して本部を壊すことも少なくなった。骸はなんだかんだ人に囲まれることが好きみたいで、ふらりと本部に帰ってきて机にチョコを置いていくし。
 みんな可愛いよね、と隣をみると、リボーンがお酒のテーブルに行ったことに気付く。リボーンは、用意されていたヴィンテージワインやオリジナルカクテルを飲みまくっていた。

「リボーン。俺にもなんか作って!」
「構わないが、割るものが今切れたからちょっと待ってろ」

 どれだけ飲もうとリボーンは酔わない。が、俺は違う。もともとそんなに強くないのもあり、訓練したがこんなとこにある酒を割らずには飲めない。リボーンはそれを分かっているから、使用人を呼びつけて補充を頼んだ。
 すぐさま持ってこられたものを使って、リボーンはカクテルを作る。流石というかなんというか、ここの使用人は仕事が早い。俺はそんなことに感動していた。

「召し上がれ、ボス?」
「ありがとう、リボーン」

 一口飲むと、俺の味覚に合わせたほろ甘さが口の中に広がった。しかし、同時に感じる強いアルコール。どうやら、度数は合わせてくれなかったようだ。いや、違う。

「リボーン。何、これ」
「甘いだろ。ちゃんとお前に合わせた俺の愛情たっぷりじゃねーか」
「酔ってたんだな……しかたないなあ」

 不機嫌や感情がぶれているときに飲むと、リボーンは強烈なサディスティックさを発揮する。つまり、今のリボーンは一番危険人物ってことだ。

「なあ、俺もう眠いから……添い寝して?」
「珍しいな、いいのか」
「いーよ。ほら、連れてって?」
「イエス、ボス」

 獄寺君に目配せして、そっと会場を抜ける。リボーンは俺の腰に腕を回してすっかりご機嫌だ。
 これからのことを思うとちょっとため息が漏れるが、まあそういうこと含めて好きだからなあ。どうしようもないなあ。そう、考えたってちょっと楽しみにしちゃってる自分はいるのだ。


2011/12/25 睦月拝



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