甘えたな王様



 仕事が終わり、すっかり立派になった右腕にエスプレッソ、ではなくラテを淹れてもらう。そんなことがやっと当たり前になったころ、最近の忙しさのあまり触れ合いが減ってしまった恋人のことを思い出す。そういえば、「今日帰る」とメールが入っていた。ああ、だから今日は仕事頑張ったんだった。忙しくて、頭が上手く働いていないのが分かる。恐らく書類にミスはないだろうが、体調も崩してしまっているだろう。自分で気付いていなかったから、守護者たちは気付かなかっただろうが、あいつは別だ。しまった、どうしよう、と考え始めたところに、あいつの気配が近付いてくるのを感じて、俺は心の中で白旗を揚げた。
 くらっというような浮遊感が、赤信号を知らせてくる。遅い。遅すぎるではないか。自覚したとたんに襲ってくる気怠さに倒されそうになりつつ、目の前のドアが開くのを待っていた。

「今、帰ったぞ。ツナ」
「おかえりなさい。お疲れさま、報告書は獄寺君に」
「渡しておいた。さっきすれ違ったからな」
「そっか、じゃあ」
「じゃあ、お前は着替えてベッドだな」

 やっぱり、と呟くと、呆れたような顔で応えられた。そのままぼーっと久しぶりのリボーンを見つめていると、いつの間にか担がれて荷物になっていた。ベッドに寝かされ、彼は一旦離れて俺の寝間着を持って投げてくる。それを顔面キャッチして(面倒臭がった結果)、のそのそと行儀が悪いと承知の上で寝たまま着替えを始めた。

「んー、んしょ……はあ」
「はあ」
「……ありゃ」

 ため息一つ吐かれ、リボーンは無言で俺を起こし着替えを手伝い始める。別に、いいのに。と言ってるのに、顔は何故か緩む。うん、考えることが面倒になってきた。
 ありがとー。なんてのん気にお礼を言って、脱いだ服はリボーンも面倒だったのか籠に投げ入れて、もぞもぞと俺を布団の中に押し込む。ここで妙に働いた頭は、リボーンが離れてしまうなあという要らん洞察結果を脳内でリフレインさせる。込み上げる寂しさを我慢するという選択肢を、ぼんやりした頭は始めから候補にすら上げなかった。
 ぎゅう、っと残っていた体力を使って、ベッドの縁に座っていたリボーンに抱き着いた。なんだかほっとする温もりが得られて、俺はさらに強く抱き着いた。

「ツナ? どうした?」
「だって、んー……寂しい、んだ」
「そうか。何が望みだ?」
「大したことじゃない、けど。傍にいて、欲しい」
「世界最強の俺様に、そんなこと頼むのはお前だけだ」

 素直に欲求を口にしたら、リボーンは話しやすいように座りなおして、いつもとは違う優しい顔を俺に見せてくれた。なんだか嬉しくなって、幸せだ、なんて漏らすと、単純だと笑われた。俺は、いつも単純なんだよ。そう返してやった。
 早く寝ろ、と口と全くあっていない優しい手で頭を撫でられ、眠気が俺を手招きし始める。もっと欲しいのに、意地悪な温もりだ。

「りぼ、ん。ありがと」
「はっ。ったく、お前はまだまだダメツナだな」
「お前が、いてくれるなら……ダメで、い、い」

 そう、お前がずっといてくれるなら。子供みたいなことを言ったら、リボーンは怒るかと思った。でも、不思議なことに、ダメだ無理だと言わず、別のことをいった。

「お前が望まなくても、離れないぞ」

 それが否定ではなくて、とても幸せな答えだということだけは認識して眠りに落ちた。翌日、案の定昨日のことをおぼろげにしか覚えていない俺は、リボーンにしごかれたことは言うまでもないだろう。

___end
 それこそ、どこまでもついていく。

2011/11/29 睦月拝


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