ほら、国の違いだよ。
いい天気、母さんのお弁当、メンバーは骸と俺。最初はなんで?と思ったが、いちいち細かいことを気にしていたら、俺の胃に穴が開くだろうと思って聞くのをやめた。武器を向けてくるでも無いし、「デザートを作ってきました!」とにこにこしている奴を蔑ろにできない。むしろ仲良くしていた。それを我慢して見ていられない獄寺君のため、骸が来たら二人きりというのがお決まりになっていた。というのが一か月前。
今日も来ました!と、骸はにこにこ笑顔のまま自前のお弁当を食べている。俺も母さんのお弁当をつつき、ぼーっと空を見ながら妙な時間を楽しんでいた。
一緒に食べるようになって気付いたが、骸は世話好きでよく喋る。アイツ等がどーしただの、クロームが可愛いだの、俺がどーしただの。色々喋るものだから、俺はてきとうに(決して適当ではなく)返事をしていた。
「で、千種が間違えて封筒を渡してしまって」
「それ大変だったろ」
「そうなんです! もう仕方ないから、クロームには後でフォローしましたけど」
「へー」
「またお邪魔させていただけますかね。あの子たちだと栄養バランス悪くて」
「どーぞ。母さんも喜ぶだろうし」
よく喋るようになって、よく家に来るようになって、仲良くなって。平和だなあ、なんて呑気に欠伸をした。食べ終えたら、抗いたくない眠気がくる。すると、そろそろ昼休みが終わることが分かる。ちょっと、寂しいような気がした。
何考えてんだか。どうせまた会えるのになあ。さよならってやつはどうしてこう寂しくさせるのか。そんなことを考えていたら、骸はにこにこを引っ込めしゅんとしていた。
「寂しいですね」
「……え」
「さよならって、寂しいですよね。また会えるって分かってても」
「うん、だな」
「また、来ても良いんですよね」
「当たり前だろ。来いよ」
確かめるようなことを言うから、俺にしては珍しく強気で応える。また来い。それで良いんだ。また笑って、てきとうな返事を聞きに。また寂しいと思いながらさよならって。
俺の答えに、骸はまたにこにこして、綺麗な顔をさらに綺麗にする。
「ええ、また来ます」
「よし」
「君のダメダメ話も楽しみにしていますよ」
「ったく、お前なあ」
確かにダメダメ話だろうけど、なあ。お前はどーせ頭だって良いし、生徒会長だし、運動もできるからイケメン話だけどさ。アイツ等の話のときは母親みたいになるくせに。
ぷくっと膨れたが、その頬を突っつかれそうになってすぐさま引っ込めた。
「もうっ!」
「もうっ! じゃねえ」
「突っつかせなさい!」
「やだよ!」
「絶対突っつきます」
「させません」
そんなに突っつきたいのかよ。多分そんなことでは無いが、どうしてだか意地を張りたくなる。骸は骸で人差し指を俺の頬に狙いを定めて突っつきを繰り出す。
最初は避けていたが、だんだん疲れて避けるのを止めた。骸は「勝ちました!」と言って、嬉しそうに俺の頬をツンツンする。
「もー。昼休み終わるから止めてくれよ」
「残念ですねえ。結構ぷにぷにしてて楽しかったんですが」
「ったく」
名残惜しい、と言わんばかりの表情が、ピーンときたらしく、満面の笑みに変わる。
「仕方ないのでさよならのちゅーしてください」
「……やだ」
「照れ屋さんも可愛いですけど、そこは素直に」
「い、や、だ」
急に言い出したおねだりを、俺は却下した。それはもう徹底的に却下した。いや、別に却下せず素直に承諾してもいい関係では、ある。でも、俺は奥ゆかしい日本人で、突飛な提案を承諾できるほどの上級者じゃないのだ。
すると、あまりに却下するからため息を吐かれる。またやってしまった、と今度は俺がしゅんとした。
「仕方ないですねえ。君は」
「……だって」
「そういうことも含めて、僕は君が好きなんですよ。と、言うわけで」
ちゅ、と軽い音をたてて、俺の頬に温かいものが触れた。
「僕からしました」
「……も、恥ずかしいヤツ!」
「では、また」
特徴的な笑い声を残して、骸は去っていった。俺はしばらく戻れないなあ、と呟いて、屋上の風に頬を晒していた。
ああ、そんなヤツが好きで恋人だなんて、どーしてだよ。答えが出ないことを考えながら。
早く会いたいなあ、とメールしたら、驚かせるくらいはできるだろうか。
___end
骸スキーな友人に捧ぐ。
結論、僕は骸をイケメンに書けないみたいだ。ごめんなさい。
2011/11/22 睦月拝