愛情定義



※重力定義、距離感定義、矛盾定義の続編です。
※前作を読まれなくても大丈夫です。


 気持ち、というのは常に移り変わっていく。多分、ずっとというのは今だけでもの言い替えで、そんな悲しいことを思うけど、人は人を想って生きる。自分が、そうやって他人を想うなんてちょっと前までは思わなかったのに。
 ちょっとおかしく思えて、笑う。人を思って笑うなど、家族以外ではあまりないなあ。そんなことを考えながら、手はクッキーの生地がこねている。気持ちがどろどろに込められて無駄に甘くなってるんじゃないだろうか。いや、大丈夫だろう。
 半分に分けて、片方にはココアパウダーを混ぜ二色にする。生地を薄く延ばして、型貫きをする。あますことなく型貫きした後、生地を丸めて手で形を整える。温めておいたオーブンにそれらを突っ込み、装飾用チョコを湯煎で溶かす。
 週末にクッキー作るから待っててみたいな言い方をして、そこで手が止まりそうになる。お湯は不安まで溶かしてしまうのか。
 アホか。いや、気付かれてはいないはずなんだ。だって、告白はどうすれば良いとか聞いても、普通の答えが返ってきたしさ。アイツは、気持ちを馬鹿にしたりしないってことも、俺が伝えても傍にはいてくれることも分かってる。その上でやっと決意した自分が、すごくずるいということも。
 ぼけーっとしているとオーブンが焼き上がりのメロディーを鳴らす。タオルで火傷しないように、オーブンからクッキーを取り出す。いい香りがふわりふわりとあたりに出来上がりを知らせる。
 そこではっとする。察しの良いアイツは、この香りでここにすぐ来てしまう。ああもうヤケクソだ!!湯煎で溶かしたチョコで、二枚のクッキーにストレートな言葉を描いて、それだけ分けて冷蔵庫に慌てて閉まった。

「いい匂いだな、ツナ」
「……あ、うん。今できたとこ。冷ますから座っててよ」
「分かったぞ」

 間一髪、アイツが来る前に冷蔵庫にしまうことに成功した。アイツがいつもの場所に座ったのを確認して、焼きあがったクッキーたちを皿に移す。一人分だけ盛って、残りは大皿に載せてラップしておく。
 タイマーをかけて、座って待つアイツのところにいく。

「タイマーかけてきたから、ちょっと待ってろよ。熱いから」
「ああ」

 相変わらず俺にしか分からない表情で、返事をする。そんなことに喜びを感じ始めたのはいつだったか。多分、そこからこの気持ちは始まっている。そんな気がする。

「な。リボーンは、何があっても俺の、先生だよな?」
「現に、先生だろ」

 当たり前だ、と答えるアイツは俺の何もかもを知っているとばかりに、自信満々に答える。そう、どんな馬鹿だろうと、どんな問題を抱えていようと、いつだって俺の先生だ。そんな先生が知らないことを、今からすべて打ち明ける。不安と期待と歓喜がぐるぐるとしていた。

「なあ、ツナ」
「ん?」
「好きな奴に、告白できたのか?」

 やっぱ、お前は先生だね。

「これからすんの!」

 そう答えたところで、ピピピとタイマーがなる。ちゃんと冷めたのを確かめて、ようやく冷蔵庫のクッキーを上に載せた。もう、戻れなくても大丈夫。そんな安心感が俺を包んでいた。

「はい。召し上がれ」
 コトン、と皿をアイツの目の前に置けば、俺のできることは終わり。
「いただ」
 くぞ、と続く言葉は聞こえなかった。ただ、表情から感じ取れたのは、驚き。

 アイツがクッキーに手を付けないまま、時計の針が煩く感じ始めた。もったいないから自分で食べてしまおうか、と考え始めたころに、ようやく何も描かれていないクッキーに手が出される。やっぱり、この恋は叶わないのか。なぜだか重苦しかったはずの気持ちが、その瞬間ふわっと軽くなった。頬が緩んで、久しぶりに笑顔が漏れる。

「ツナ? お前、なんで」

 また、先生が驚いている。何で、と思ったところで、先生の手が俺の頬を撫でた。

「な、何して!」
「何で、泣いてるんだ。俺はまだ、何も……言ってない」
「だ、って。止まらな、い」

 俺の涙は拭う先生の手をぐしゃぐしゃに濡らして、それでも今までの圧縮された涙を吐き出すように流れ続けて止まらない。何も言ってないぞ、の言葉に期待を持つのに、自分の中では否定の言葉がガンガンと心を打ちつける。どうしようもなくなって、自分より遥かに小さい先生に泣きつく。先生は、こんなときだけ優しく背中を撫でてくれた。
 背中を小さい手が撫でる感覚を落ち着いて感じることができてきて、ようやく先生の顔を見る。そこには、何故か今まで見たことないような優しい笑顔の先生。

「バカツナ、だな」
「久々に聞いたよ、それ」
「俺は、ストレートに言えって言ったんだぞ。直接言え。じゃないと、返事はいつまでもお預け、だぞ」
「何、それ」

 言え、とはお前は何様なのか。人が勇気を出したというのに、ケチつけて教えただろうほれ、と返すとは。いや、だからこそ先生なのだけど、お預けは勘弁願いたいから言おうとする自分がここにいる。
 全くどこまでも、人を侵食する黒だ。

「好き、だ。お前が、リボーンが」
「俺も、好きだぞ」

 なに、と思って顔を見直す。そこには変わらず優しい笑顔の先生で、俺は瞬きを繰り返した。

「う、そつけ」
「おい、お前に嘘吐いてどーなる。本当に本当だぞ」
「いいの? 俺は多分ウザいよ」
「何言ってやがんだ。お前が嫌だっつっても離さないから覚悟しろよ」

 うそだうそだ。信じられない。そんな言葉が、先生の言葉で次々と壊れていく。湧き上がる歓喜と、顔に集まる熱のせいで、俺は全く可愛くない言葉を次々と吐き出す。

「バカ、バカバカバカ。キザ、くさい、何様だ。馬鹿……好き、だ!」
「なかなか可愛い告白だったな。美味しいぞ」

 そういうリボーンの口には、齧られた想いを描いたクッキーが咥えられていた。気恥ずかしいことを簡単にやってのける。
 そんなリボーンにやり返したくて、口を彼に寄せる。

「ばーか!」

 強がってほっぺにキスして逃げたことで、ちょっとはやり返せたと俺は信じたい。


___end!
 へい!やっと完結いたしました。
 四部構成という全くオジャマな構成にしてしまいすいません。うっだうだしてるリアルなファンタジー、というコンセプトで書かせていただきました。前作までのビターな感じを最後は甘ったるく仕上げられたのではでは?と思っております。
 読んでくださりありがとうございました!

2011/11/06 睦月


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