2013年
2014/01/01 03:01

吾輩は炬燵である。

……すみませんちょっと調子に乗りました僕はただのしがない大量生産品の炬燵と申します。
現在、僕の懐には二人分の下半身がおさまっています。青い丹前を着た男子大学生と、同じく緑の丹前を着た男子大学生。この二人が新たな新居として選んだこのアパートの一室、居間の中央に置くべく、半額ずつお金を出しあう形で僕は買われました。
そして二人きりで暮らす彼らは、どうやら世間で言うところの恋人同士、という間柄らしいのです。

「快斗」

「はい七味」

「ん」

僅かな言葉でも余裕の意思疎通。その様はむしろ夫婦にすら見えるんですよね。もちろん炬燵の目線ではですけど。

「もう今年も終わりだね」

「そうだな」

「いろいろあったね」

「そうだな」

この二人、この春にここで二人暮らしを始めるまでに、いろいろあったみたいなんですよね。
一年前の冬、大型デパートで彼らと初めて出会ったとき、彼らは僕を前にしてこう言ったんです。

『来年の冬には二人で一緒に炬燵で暖まりながら蜜柑を食べたり、年越し蕎麦とか食べたり……絶対、絶対にしようね』

『…………ああ』

その時の二人の真剣な瞳ときたら。きっと僕はいつまでも忘れられないのだと思います。
それから多分、僕には想像もつかないようないくつもの問題の壁を乗り越えて、この春ようやく彼らは僕を買いました。僕にはそれがなんだかとても嬉しかったのです。

「ほら、もうすぐ日付変わるよ、うとうとしないの」

「おう……」

食器を片付けて戻ってきた緑の丹前の青年―僕の持ち主というか買い主というか…ご主人様でいいんですかねいいんですよね―が青の丹前のご主人様を揺すぶります。でも青のご主人様は、返事をしながらも、どこか寝惚け眼でした。

「新一ってば!」

「……ん」

[ハッピーニューイヤー!あけましておめでとうございまーすっ!!]

テレビから明るい声が流れてきました。年が明けたようです。
夢うつつな青のご主人様のおでこは僕の天板にくっついています。
それでも緑のご主人様は嬉しそうに微笑みました。それはなぜか。答えは僕の内側を覗けば一目瞭然です。

僕の天板は正方形。なので斜めに隣り合うように角を挟んで座っていたご主人様達。僕の体は大きくはありませんが、それでも肩を寄せあう程でもない微妙な距離でした。

しかし年越しの瞬間、青のご主人様は僕の中に入れていた手をのばし、緑のご主人様の手をきゅっと握ったのです。

紫色の瞳を真ん丸に見開いた緑のご主人様は、とても幸せそうにその手を握り返します。
そして相変わらず僕の天板に突っ伏したままの青のご主人様の耳は、僕の心臓部よりも熱く、紅く、染まっていたのでした。

これから先、どんどん厳しくなっていく冬も、僕が押入れに仕舞われる夏も、ずっと、ずっとこの二人のご主人様が幸せでありますように。

それが…………吾輩の幸せな炬燵ライフである。





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