良い夫婦とは
2013/11/22 22:07



カチャンとドアの開く音。
愛しの旦那様のご帰宅である。
俺は畳んでいた洗濯物を放り出して玄関へ急いだ。

「ただいま」

ぼそりと聞こえるか聞こえないか程度の、だるそうな声だった。
元気がないなぁ。
勿論、いくら小さな声でも俺は決して聞き逃さないけど。

「おかえりなさいダーリン!!」

耳許に大きな声で挨拶。そのまま笑顔で腕を広げれば、大きな溜め息が返ってきた。
やっぱり元気がない。
そんなことを考えていた俺に。

「ただいま帰ったよハニー…ぃっとぉ!!」

見事なドロップキックが炸裂した。
黄金の右足をもろに喰らってしまった俺は、黙って沈むしかない。鼻血出てないかな……。

「今日はサークルの飲み会があるって言ってあっただろうが!なにいじけてんだよ」

俺の愛の挨拶が頭に響いたのか、怒鳴る彼の顔は険しかった。

「だって……今日はいい夫婦の日だったんだよ?それなのに、もうこんな時間じゃん!」

「別にそんなんどうでもいいだろ!第一、俺らは夫婦じゃねえ!!」

「ひどっ!どうでもいいってなんだよ!俺、一ヶ月前からずっと言ってたじゃん!!」

「だからなんだよ!キンキン叫びやがって……人が折角途中で抜けて帰ってきたって言うのに」

「えっ」

「あっ」

途端かあああっと赤くなる顔。そこにはいかにもしまったと書いてあった。今更腕で隠したってもう遅い。

「ちゃんと覚えてて、くれたんだ」

「……あんだけ毎日のように言われりゃ忘れるもクソもあるかよ」

観念したのか、開き直ったように言い放った俺の旦那様。まだ顔は赤いままだ。

「そっか。ありがと」

俺は世界一幸せなお嫁さんだ。
あ、違うか。

「じゃあ今日はうんと優しくしてあげるね」

「……いつもじゃねぇか」

薄紅色の頬を膨らませて呟いた彼こそ、俺が世界一幸せにしてあげたいお嫁さんなのだ。






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