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とある詐欺師の秘密事項





「こんにちは、名字さん。こんな時間までどうしたんですか?」




にこりと笑って言ったら、名字は怪訝そうに思い切り眉をひそめてみせた。ああ、せっかくの可愛い顔が台無し!


「勉強だったら手伝って差し上げますよ」
「…しらじらしい」
「何がです?」
「柳生君のふりしてんじゃないよ、詐欺師め」


けっとまるでタンでも吐くかのように言い捨て、名字は持っていたプリントのはしっこを合わせて折った。俺は仕方が無いので笑って言った。


「バレとったか」
「あたりまえだ」
「どうもお前さんだけは騙せんのう」
「つうか普通に解るでしょう」
「好きな人だから、ってかい」


目に見えるくらいに、名字の頬がかあと熱を持ったのがわかったので、また笑った。意地悪な微笑など今までまだ一度だってした覚えはないのに、名字は俺の笑いが胡散臭いだの人を馬鹿にしているだの散々なことを言う。じろりと睨まれた。


「解りやすいね、名字さんは」
「…うっさいよ」


そんな邪険にせんでも、ていう位、名字は俺を今にもかみつきそうな勢いで睨んでくる。おーおー、怖い怖い。なんで俺にだけそんなに、きっつい態度とるんじゃろ。そんだけ嫌われてるってことかい。笑える。


「知らんかったなあ」
「…何を?」
「名字があいつのこと、好きなん」


…うそじゃん、と、口を尖らせて言うので、「いや、うそだけど」「さいてい」苦笑い。知らんほうがよかったなあ、そう思って苦笑い。名字はいまだに眉間にしわをよせたまま「よく笑うんだね」「そうかのう?」「いやみな笑いだよね」「手厳しいのう」言うので、また笑ってやった。どうだ。お前の大好きな柳生くんの顔をして、大嫌いな仁王くんの笑顔三昧だ。ざまあみんしゃい。



「名字」
「なによ」
「いいこと教えてやろうか」
「別にいいです。何かろくなもんじゃない気がする」
「そう言わずに。実は、柳生の」
「…、」
「…親友の仁王くんは、」
「て、おい」


肩透かしをくらったみたいに名字がちいさく講義した。はは、そうやって困っていたらいいのだ、お前さんなんか。




困って、困って、困って、ほかに何も考えられなくなるくらいに、困ってしまえ。








「名字なまえさんのことが好きなようです」











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