首を絞められるのかと思った。でも、顎を持ち上げられただけで、少し残念、なんて思ってしまった。気付けば私は決して忘れられぬ鮮烈な衝撃を、何時も何時も求めているのだった。彼は私の世界そのもので、私は彼に自由を奪われながら彼の世界だけで死ぬまでの時間を潰していたかった。

彼の唇が降りてくるけれど、上手くいかない気がしている。何もかも。それでも触れた先から躯は熱くなる。嫌気が差すほど欲望は有り余っていて、私は彼の前で清純ぶるのに限界を感じ始めていた。何も知らない顔をしてみて、触れられる度に震えてみて、怯えた様子で彼を見上げてみて、そんな回りくどいことの全てに疲れてしまった。

もっと激しくぶつけてみたい。どれだけ私が貴方を愛しているか、どれだけ貴方と夜も昼も朝も愛し合っていたいか、解らせてあげたい。貴方以外なんて如何でも善いと言ってみたい。そうしたら蔑みさえ気持ち好くて、私は重い十字架を棄てられる、



「…姫、何を考えているんだ」
「……貴方のことですよ」


お決まりの様な答えを返せば、お決まりの様に嬉しそうに目を細めて柔らかく笑む彼に、同じ温度の笑みを向ける。この様子を見たら、私はもっともっと彼を喜ばせたくなってしまう。

だから私は、永遠に棄てられない気もしている。棄てたら、彼は私になど興味が無くなるに決まっている。男と云うものはーー勿論彼も例に漏れることなく、美しく清廉で、穢れをその身に知っていても穢れのない様に見える女が好きなのだ。

何時までも何時までも、彼の前では奇麗な女で居続けなければいけない。
重い十字架を抱えて、彼のこと以外の如何でも好いことまで祈り続けなければいけない。
平和を願う振りをして、何としてでも彼に愛され続けなければいけない。


その繰り返しに奇跡の様な終わりが来るならば、彼が私の首を、絞め上げる為だけに掴んだ時でしょう。







(2011.04.01)
彼とのキリストを孕めば幾許か解放されるかしら
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -