すぎゆくものたちへ
わたしのそばをとおりすぎてゆく
置いてかれたわたしは
しばしば夜のあかりが車窓をかけてゆくのを眺めるような面持ちで
あなたたちのそくせきもない
かすかなきらめきの残像に
目を凝らす
そして
わたしはわたしを思いだす
すぎゆくものたちへ

シグナルはある
空高い閃光弾が
みえないこともある
強固な傘もある
わたしが走り抜けてゆくこともある
ただいつの時代も
わたしはわたしでしかないということだ
それ以上でもそれ以下でもない
一個の事実を
感傷や感情や比喩やアートや思惑たちは
いろんなふうにつくりかえる
それだけ

ひとりという言葉に
さみしさをあてがうのは人のすること
それが愛しく
ひとりという言葉に
愛しさをあてがうのは人のすること
わたしはいつでもひとりだ
この事実に
永遠の熱ときらめきと
うつくしさをあてがうのは
やはり人のすること
そしてわたしがなにをあてがうか知っているのは
いつもわたしだけ

すぎゆくものたちへ
わたしはひとり
もしかしたらあなたもひとり
天高い鷹のごとく
もしかするとあの鷹はつがい
置いてかれたわたし
だれもいないのはら
一陣の風
髪のすきまを縫い
冷めていく肌
こんな景色
いま
こんな景色



すぎゆくものたちへ
2022/07/22





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