ああ 彼女はこの人を愛しているのだな


手に入らないものを見つめ
こころをもたれかけている
手に入らないものの
手に入らないことをこそ
頼りにしている
きみはとても
とても淋しい 人だったね

そう 彼女はその人を泣いてしまうくらい愛していたのだな


なぜ神様は壊すのをかんたんにしてしまったのだろう
つくったものを
育てたものを
めちゃくちゃにしてしまうのが
あまりにたやすくて
僕も泣いている

ま それはいわれのない 批難でしかないんだけど

人々は過去を振り返り
過ちの数をかぞえ
戦争を語り継ぎ
人々は殺しあい
諍い 傷つけ いつか朽ちるのだと教える

いや 最初は愛だった
愛を遺そうとしたのだ
この痛みを忘れるな
そして忘れぬことから
新たな愛をおもいだせ
この痛みが愛になじむとき
愛に進化するとき
わたしたちは
もう一度会える


おお きみは僕を愛しているのかい
いや 照れてしまうよ
僕はそんなに正直じゃなかったから
ごめんね…

こころを預けてしまうような
愛なんてあるだろかと
高潔に考えたのさ
いや それだってあるよな
僕は まだまだ幼稚だった
しかしほんとうに預けるとはどのようなことなのか
まだもうすこし分析してみよう
僕たちには その価値がある

高潔であり
幼稚だ
惨めなのに
とても叡智のきらめきにみちているのだ

星はいつか堕ちるが
銀河は収縮と膨張を繰り返すが
ブラックホールはすべてを飲みこむちからがあるが
地球はあんまり小さいが
どうして海はこんなにきれいなんだろう


彼女はあの人を愛していたのか…あんなにも

それを知れて よかった
ああ遺していてよかった

あのさ
サンダルは履いた?
帽子かぶって…
鍵 持った?
じゃ いこうか。



八月一四日
2021/08/14





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