あなたが愛していないといえば
あなたはわたしを愛していない
父に殴られたから
母は男好きだったから
あなたは愛されたことがないから
愛なぞしらぬというならば
あなたはたしかに愛をしりえない
わたしがどれだけあなたを愛していても
あなたのなかには届かない
あなたがみているわたしは
あなたのなかの幼い面影
わたしがどんなに強くとも
あなたが弱いとおもえばわたしはとても頼りなく
ひとりで生きられぬ子どもになる
ただわたしはあなたをほんとうに愛しているので
ことばなどは捨ててしまえるほど
あなたの腕の強さやしなやかさや
あなたの背中のおおきさや
手や指やまつげのかげやにおいや
うなじや髪の毛の流れのいちいちを
四季のように愛しているので
どれだけあなたがかなしくても
愛をしらないけものでも
わたしはなんにも変わらない
なんにも変わらない
あなたのなかに愛がなくとも
わたしのなかにはその火がある
この灯がある
あなたのなかにないという愛は
あなたの底知れぬ痛みとかなしみを燃やす
燃やしつづけているそのほのおだ
ああいまこんなにも
いまこんなにもまたあなたが愛しい
どうかあなたのできることを数えて
あなたはこんなにも素晴らしく完璧なのに
あなたを育てたひとたちが
あなたをとりまく環境が
与えられたものと与えられなかったものが
どんなであれ
関係ないわ
あなたはあなただもの
わたしは愛している
なんにもなんにも関係ない
神さまも地球も星やいのちや流れや思いや汚れや強さや摂理も真実も
なんにもなんにも関係ないや
もいちど抱いて
もいちど抱いて
あなたがあなたにできないやさしさを
わたしにちょうだい
わたしはそれを永遠に返しつづけるから
永遠に返しつづけるから
強いいかりのほのおにゆらぐ目
その目にキスしたいだけ……



ぼくのオルガン

2020/07/25

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