震えながら牙をといだ
あの十年は無駄ではないと
震えながら牙をといだ
この先一年ももはやいらぬと
震えながら牙をといだ
そうすることで狂っていたかった
震えながら牙をといだ
狂うことでしか正気でいられなかった
ひとりだった
ひとりだと思っていたから
狂ってなどいなかった
ずっと真面目だから苦しかった

震えながら牙をといだ
あなたはわたしの手に手をそえた

涙が土に落ちたら
わたしの種も芽吹くだろうか

震えながら牙をといだ
その牙をいまはもう大事にしまっておける

あなたの腕のなかは
安らかさとやさしさだった

この牙は
ほかのだれかを傷つけ
わたしを痛めつけ
流れたぶんの血を吸って
泣いたのだ

あの十年は無駄ではない
この先一年くらいなら生きられよう

それから気づけば百年生きた
あなたは何度も現れては去っていったが
わたしはもう孤独だと
嘆くことはなくなっていた

今日もこの丘で海を見わたしている

わたしの波は寄せては返す
素晴らしい永遠がここにあった



震えながら牙をといだ
2020/03/14





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