燃え盛る火のなかでうまれた
あれは諍いの火だった
わたしたちは悶え燻ぶ火の粉のいっぺんだった
強い日差しが煙で炙られ
空が赤を反射していかっていた
この血には母たちの恐れと痛みと優しさが刻まれ
それは強いいかりと愛へと昇華されゆく
この拳には父たちの苦悩と孤独と忍耐が宿り
すべて静かな灰となり風に溶けて美しく舞う
燃え盛る火のなかでうまれた
わたしたちはどんな生き物よりも脆くしたたかで
あくどい無垢なたましいだった
わたしたちは清さ正しさのなかでうまれ
血や涙や灰にまみれ
おのれという毒と悪意にけがれることで
次の美しさを見つけるのだ
悪魔などいない
悪魔とはわたしたちのことだ
地獄などけっしてありえない
それは誰かが憂うこの世のことなのだ
わたしたちは燃え盛る火の海にうまれ落ちた
忘れることなかれ
わたしたちならば覚えている
母の力強い涙を
父の震える拳を
女どもの熱き胸を
男どもの重き腕を
たとえどれだけ地を這い
血や涙やいかりに溺れても
けっして死ぬことのない
尽きることのないものがある
燃え盛る火のなかでうまれた
それは深い海の底であり
きらめく朝日をかかえる山の頂きであり
いかりと悲しみの火の粉舞う戦場であり
愛する人の眠る墓場であり
新たな赤子のうまれる母のなかであり
雄々しき父の腕なのだ
きみよおそるることなかれ
きみの強さなどとうに知っている
前だけを見ていていいのだ
きみの賢さを知っている
母や父を忘れても
恩や敬意をなくしても
きみはかならず手にできる
そしてきみはかならず目覚めるから
それは誰かが馬鹿にする美しき真実などではなく
なんの変哲もない事実だから
わたしたちは燃え盛る火のなかでうまれたよ
もう思い出した?
そこにはすべてがあった
わたしたちは何度もキスをして手を握った
矢を放ち
剣を刺す
そんなふうに力強くも
けっしてなにも傷つけず
壊すことなく
人々を愛せる
わたしたちはおなじいのちを持っている



燃え盛る火のなかでうまれた
2019/12/20





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