春を思うことは
呪いのようだった

呪いはひとつの形見だった

それはもはやまぼろしでしかなかった

そしてそれでもとても大事で
まがいものなりの
愛だった

いまも同じきみを思うことは
あの頃のような痛みはなく
しとしとと振るほそ雨の
静かなやさしさとさびしさを知る
深い夢

はじめは手を繋いだ
竹藪の坂道
わざといいきかせた
おぼえている すべて
あの果てまでの途を急ぐかのような雲……
そんなことばも
小さな傷も
乗り越えた柵も
縄をかけた配管も
なにもかも
きみといた事実だ……

春という呪いを作った
きみがいればわたしは気違いになれた
にせものでよい
なんだってよい
気を紛らしていただけだから

ありがとう

春を思うことは
ささやかな光だ
あのオルガンは
わたしの愛の影だ



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2019/11/03





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