あなたは知らないだけだ
わたしのことを
あなたは忘れている
わたしのことを
それでもいい
あなたが一歩いっぽ踏みしめていけるなら
あなたの肩にふれた一輪は
わたしの名残りだ
あなたはこの世に自分以外の人間はいないと思っているが
わたしはいる
あなたは忘れてしまった
わたしのことを
あなたは目を閉じたので
ずっと闇のなかにいる
まぶたを閉じた闇は
どんな闇夜よりも深い
永遠に朝はこないからだ
あなたが閉じているかぎり
傷つかないために
自分で自分を傷つけておくことを選んだ
あなたのことを知っているわたしは
なぜならわたしはあなただったから
わたしは知っている
あなたは古いわたしで
そして新たなわたしだと
あなたにとってわたしも
古いあなたであり
新たなあなただ
わたしはわたしの肩にふれた小さな一輪を
蟻よりもかすかな重さを
春の木漏れ日よりもずっとうすいぬくもりを
忘れない

あの砂漠をこえ
海をわたり
鳥の鳴き声を追いかけた
雲の流れを眺め
風をだいた

わたしたちは
細胞だった
まぎれもなく
一個の細胞だった
遺伝子はすべての物質のなかでもっとも単純に構築され
はじめに二つに分かれるときまで
ただの一個だった
無数に縮小していった果ての
一個だった
そしていま
無限に拡大していく
一個だ

その横顔を見るとき
なにかが脳裏にひらめく
それは
はじめの一個だったときからの
永遠の記憶である

わたしの横顔に思い出して
あなたが感じるあなた自身を



横顔
2019/04/21





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