かんたんなことを
忘れないように
何度も思い出す

わたしはすぐに忘れてしまう
わたしの名前も
あなたの顔も

何度も思い出す
何度も思い出す
日々をすごすなかで
わたしを忘れないように
あなたを忘れないように

忘れたくない
忘れたくない
忘れてはいけないものをこそ
忘れてしまう

抜け落ちていく記憶が
なぜかわたしの湖を満たしていく

それでもわたしは
思い出す
何度でも思い出す

あなたを愛していることを忘れてしまったら
わたしはわたしであることすら
思い出せなくなるだろう

ある日
花についた虫をつまんでいたら
なにかを思い出さなければならないことに気づいたが
それがなんだかわからなかった
しかしわたしは
不思議とおそれはなく
少しの淋しさと
えもいわれぬ愛しさに
つまんだ虫を殺すのをやめて
庭に逃がした

ゆるやかな悲しみの丘は
いまもここにある
ただ
この丘には四六時中
やさしい風がふいている



悲しみの丘
2019/03/05





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