二人がいた古い春を
思い起こす

草のかおり
土のかおり
花のかおり





前髪や
覗く耳
背骨
脚と
てのひら
爪も
息も

ふれるほど間近だった
なぜならそれは
ひとつであることを
別々に知っていたから

生きていても死んでいても僕たちは
確かなものだった
たとえばそれ以外のすべてはもはやあやふやで
ただもっとも確かなものというのが
私たちだったから

おおきみのいた古い春を
この先は永遠に遠のいていくばかりの春を
いま引き寄せる

引き寄せる

引き寄せる

打っては砕ける波のように
僕たちは

さよならとやあまた会えたねが対のように
完璧に分かれた二つは
いつでもともにある

ひとつだから二つになったし
私たちは二つだからひとつになった
あの春は二度とこないが
この春とその春は
まったく同じで
まったく別々だ

春がいま目の前に



春はいま目の前に
2019/01/13





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