静かに花ひらく
あなたの好きだといった花を育てる
胸の土に芽吹くものがある
蟻たちが運んだ種と
風に流された種と
なにもないところから現れた種
あるいは
わたしの目からこぼれ落ちた種が
この胸の土で育つ
土に埋もれたときは
不安もあった
こころやからだのすべてが
なにかに隠されて
ずっとずっと埋もれていくのではないかと思った
おそろしいものや
届かないものたちに
さいなまれてきた
答えならば簡単だった
あなたの愛した花がある
わたしの愛した時がある
ここでも花ひらく
花はほころぶ
春にも冬にも
太陽のもとでも雪のもとでも
わたしたちは生きつづけている
この胸の土は
あらゆる人々に踏み敷いてゆかれても
どれだけならされても
この胸の土は衰えず
崩れず
腐らず
ありつづける
問題などどこにもなく
問題のように見えたのは
雨の粒が大きすぎたり
夏の日差しが過酷すぎたりしただけで
実際には
土を傷つけることはできないものばかりだった
感じていたのはただの
表面の痛みだけだった
いつでも内側はひらかれ
いつでも内側はしんと冷たく
いつでも内側は深く湿って
いつでも内側は下へ下へとつづいていく
いつでも
いつでも内側は
かたく繋がっている
傷つけられるわけがなかった
なぜなら春はやってくるし
夏も秋も冬も
終わらないのだ
踏み荒らされた土をやさしく撫でる手ならば
いまここにある
いつでもここにある
わたしはわたしを戻せる
わたしはわたしを癒すことができる
踏み荒らした人々でさえ
できるだろう
この胸の土に
素晴らしい日差しと
完璧な水を
そして人々の吐息と
世界の微笑みを
花はひらく



この胸の土
2018/11/25





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