密閉感度 | ナノ

※学パロ注意









 重なったレッドの体が、とてつもなく重く感じる。それを押しのけることもできずに、グリーンは必死に息を殺すことを心がけた。
 足音が、徐々に近づいてくる。それを感じて、グリーンはきつく瞼を閉じた。レッドも緊張しているのか、軽く息を詰める気配がする。レッドの服を掴むグリーンの手に、思わず力がこもった。
 ドアが開く音がし、二つの足音が部屋に侵入してきた。それは棚一つを隔てた場所で右往左往し、二人の不安を掻き立てる。

「おい、あったか?」
「ううん、こっちにはないよ! もしかしたら、あっちかも」

 女子生徒の声が大きくなり、徐々に近づいてきているのがわかった。ロッカーの隙間から、女子生徒がこちらに向かってくるのが見える。それにグリーンは身を強張らせ、きつく目を閉じた。
 もう、授業は始まってしまっている。ここで見つかれば、後に担任からのきついお灸が待っているに違いない。
 それ以上に、この部屋で、レッドとこんなにも密着した状態で見つかるのはとても困る。相手が女子ならともかく、レッドはれっきとした男だ。そんな人間と、理由もなく体を密着させていた言い訳など通るわけもない。あのときレッドがキスなどせがんでこなければ、とグリーンは内心レッドを罵った。
 そうしている間にも、二人の足音はさらに近づいてくる。動かなければ見つからない。そう言い聞かせても、グリーンの額に冷や汗が浮かんだ。それはレッドも動揺らしく、息を詰める気配がする。
 極限状態の中、男二人でロッカーに入ること時代無理だったのかもしれない。不意にレッドが動いて、ほんのわずかに体勢を入れ替えた。その拍子に、グリーンの肩にあったレッドの右手が胸に滑り落ちる。そして、レッド手のひらが無作為に乳首を撫でた。
 その感触に、グリーンは思わず息を詰める。
 今までレッドに散々弄ばれたせいか、そこは女のそれ並の感度を獲得するに至っていた。しかし、この状況においては何の有り難みもない。喉をせり上がった声に、グリーンは咄嗟に口を手のひらで封じる。
 それを見て何を思ったのか、レッドが揉むような動作で手をわずか動かした。それに必死で声を殺し、レッドを睨む。しかし閉鎖されて光の乏しい空間では、それも無意味だった。それを見たレッドは肩を震わせ、微妙な強さで乳首に刺激を与えてくる。
 二人は、もうロッカーの目の前まで迫ってきていた。ここで小さな物音を一つでも立てればすぐに見つかってしまう。
 それを重々承知しているはずのレッドは、グリーンの乳首を撫でることをやめない。それどころか、最初こそ撫でるだけだった手が明確に快感を与える手つきになってくる。それに抗うことも許されず、グリーンはただ声を殺すことだけに集中した。

「なー、早く見つけて行こうぜー。オレ、めっちゃヒマ……」
「うっさいなあ。他探して見つからなかったんだから、ここにあるに決まってるでしょ!」
「へーいへい。あー……ヒマだー……」

 うわ言のように呟いて、男子生徒が二人のいるロッカーに歩み寄る。そしてそれに背を向けると、おもむろに体をもたれかけた。体の重みにロッカーが軋み、その音に驚いて二人は身を震わせる。
 幸い、男子生徒は二人にまったく気付いていない。しかしこれほどに至近距離になってしまった以上、動くことは危険だった。
 心臓の音が、直に耳を当てているかのように大きく聞こえる。レッドもさすがに危機を感じるのか、それ以上動くことはなかった。緊張からか、重なっている部分がとても熱い。

「……あったあ!」

 不意に、女子生徒が声をあげた。そして男子生徒のほうに歩み寄ってくる。

「もう、こんな奥にあるなら最初に言ってくれたらよかったのに!」
「アイツがそんな親切なヤツかよ。見つけるもん見つけたし、さっさと行こうぜ。この部屋いきなり埃っぽいし」
「うん。結構時間かかっちゃっから、怒られるかな」
「さーな」

 男子生徒はそう息をついて、ロッカーから体を離す。そして二人肩を並べ、棚の影に消えていった。
 訪れた静寂に、どちらからともなく息をつく。ひどく緊張していたからか、体がとても強張っていた。そして、グリーンはレッドをきつく睨んで手の甲を思い切りつねる。

「いっ……!」
「お前、なに考えてんだよ」
「なにって、ナニだよね」

 そう至極爽やかに答えたレッドの手をさらに強くつねった。するとレッドは声にならない叫びをあげ、つねられていないほうの手でグリーンの肩を軽く叩く。
 それでも怒りが収まらずにしばらくそうしていたが、やがて怒りが萎んでくる。最後に二、三回強くつねってから、ようやくグリーンは手を離した。暗闇からも、レッドが少し涙目になっているのがわかる。それを見、グリーンの胸にあった黒い霧が一斉に晴れた。
 まだ痛みの余韻に浸っているレッドを押しのけ、グリーンはロッカーのドアを開く。しばらくぶりに触れた新鮮な空気を、グリーンは思うままに堪能する。それに続いて出てきたレッドも、小さく息をつくのが背後から聞こえた。

「ったく、ひでえ目にあったっつの」
「……それはこっちの台詞でもあるんだけど」
「元はと言えばお前のせいだろうが! ……で、どうすんだよこれから」

 本鈴が鳴ってから、もうだいぶ時間が経過している。携帯を開くと、時刻は授業の三分の一が経過したところだった。今から急いで教室に向かえばまだ誤魔化せる。
 グリーンが携帯を閉じると、ふとレッドがその肩を掴んだ。そして軽く引き寄せると、唇にキスをする。グリーンはそれに驚いて、思わず体の力を抜いてしまう。それを見、レッドはグリーンの体をさらに引き寄せて深く唇を重ねた。
 音を立てて唇を食まれたところで、グリーンはようやく我に返った。半ば突き飛ばすようにレッドの体を引き剥がし、腕で唇を拭く。

「お前、いきなりなにす……ん」

 言い募ろうとして、それもまた唇で封じられた。今度は押しのけられないように手首を掴まれ、ロッカーに押し付けられる。
 角度を変えたり軽く音を立てたりで満足したのか、あっさりとレッドは唇を離した。そして楽しそうに目を細め、首を小さく傾げる。

「もうちょっとこうしてたいんだけど……ダメ、かな」

 その無邪気な笑みに、グリーンは渋い顔をした。
 答えなど言わずとも、レッドの中ではとうの昔に行動は決まっている。ただグリーンの反応を見て、それを楽しんでいるだけに過ぎない。それがわかっているから、グリーンは大げさにため息をついた。
 抵抗してもいいし、無理やりこの場を乗り切ってもいい。しかし、どうせ後に同じようなことをけしかけられるのは目に見えていた。今この瞬間にこなすのか、後に引き伸ばすのかの違いでしかない。
 グリーンは息をつき、レッドの顎を取った。そしてレッドの目を見たまま、唇を重ねる。


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