捕まえた | ナノ



 制服を腕に抱えて、レッドは立ち上がった。そして満面の笑みでグリーンに振り返り、もしよかったら、と声を弾ませる。

「これ、グリーンが着る前に俺が着てみたいんだけど」
「……は?」

 思わず呆けた声が出るのに、レッドは眉をひそめて何か文句あるの、と唇を尖らせた。
 レッドがその制服を着ることに文句があるわけではない。しかし、どういう風に思考を巡らせたらそういう結論にたどり着くのかわからなかった。レッドにコスプレ趣味はなかったはずだし、昔も警官が好きだとは言っていなかったはずだ。もしかしたら、リーグに挑んだことをきっかけとしてワタルに感化されてしまったのかもしれない。それはそれで、看過できない問題だった。
 グリーンが百面相をしていると、レッドは不思議そうに首を傾げる。そして目の前に制服を掲げ、かっこいいよね、と眩しいばかりの笑みを浮かべた。

「今までじっくり警察の人の格好を見たことなかったけど……こうしてちゃんと見ると、結構かっこいいと思わない?」
「は、なに言ってんの?」
「グリーンはこれ着たくなくてしょうがないんでしょ。だったら、俺が先に一回くらい着てみてもいいと思うんだけど」

 そう言って制服に視線を戻したレッドを、グリーンは呆然とそれを見ることしかできない。今起こっている出来事が斜め上すぎてついていけなかった。
 グリーンの予想としては、この制服を着ろ、と言われるものだと思っていた。何事にも無頓着で自分からはあまりしようとしないレッドが、それを着ると言い出すとは夢にも思わない。
 グリーンが言葉を失っている間に、レッドは制服を体に重ねて自分の肩の幅と比べたりしていた。そしてある程度満足がいったのか、制服を重ねたままグリーンに体を向ける。

「……ちょっと大きいけど、これくらいなら俺でも着られるよね」
「そうだな……って、そうじゃねえよ! なんでレッドがそれを着るっていう話になってるんだよ! それ、一応オレのだし!」
「そうだけど、一回くらいいいでしょ。ちょっと着たらすぐ返すから。……あ、もしかして」

 何事かを思いついたらしいレッドは、途端に無邪気な笑みを浮かべてグリーンの顔を覗きこんでくる。その背後から邪気が放たれているように思えて、グリーンは思わず一歩後ずさった。もしかしかしなくとも、先程感じた胸騒ぎはこのことだったのかもしれない。

「俺がこの制服着て、グリーンより似合ってたりするの嫌なんだ?」

 そう嫌味っぽく笑うレッドに、グリーンの中の何かが切れた気がした。
 間違っても、レッドが自分よりもその服が似合うとは思いたくない。事実、レッドはグリーンよりほんの少し身長も低いし線も細めだ。顔の問題は別として、制服はグリーンの体のサイズ丁度に作ってある。そんな服をレッドが着ても、とてもではないが格好がつくとは思えなかった。こういったものは体に完璧にフィットするから様になるのであって、サイズが少しでも違えば不恰好になってしまう。ワタルがどうしてグリーンの体のサイズを知っていたのかは、この際不問に伏す。
 何にしても、産まれたときからライバルだったレッドにこんなことで負けるわけにはいかない。体格と服、そしてルックス。それらのコンディションからすでにグリーンのほうが勝っていると、ここで見せつけて完膚なきまでに叩かなければならない。どうせ打ち合わせで着ることになるのだから、一回くらい着たところで何か減るわけでもないのだ。格の違いを見せつけるのは、一秒でも早いほうがいい。
 グリーンはレッドの手から乱暴に制服を取り返した。それにレッドが驚いた顔をして目を丸くしているのを見、少し優越感に浸る。

「……言ってくれるじゃん。そんなに言うんなら、オレのほうが絶対にこの服が似合ってるってことを証明してやろうじゃねえの! 見てから後悔すんなよな!」
「どうだろうね。グリーンは髪の色が明るいから、もしかしたらその落ち着いた色とは合わないかもよ」
「けっ、お前みたいな地味な感じのやつこそ服と同化しすぎちまって質素な感じになるんじゃねえの? まあ、それは着てから決めればいいんだし、先に着てくる!」

 レッドの挑発的な視線を振り払って、グリーンは寝室に繋がるドアノブを回す。背後でレッドが笑っているような気がしたが、それには無視を決め込んだ。




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