しとしとと降る雨の中にたたずむ彼を見つけたのは、些細な出来事だった。ここロンドンでは雨の中でも傘をさすのは女性か小さな子供、もしくはお年寄りばかり。男性でも傘を使う人はちらほらいたものの、レインコートやパーカーなどで頭をすっぽり覆って足早に道を行き交う人ばかり。そんな中、ジャケットにズボン姿で雨に濡れることなど構いもせずにただ立ち尽くす彼を見つけたのはカフェで湯気の立つマグを手にそんな光景をなんとなしに眺めていたときだ。初めは地下鉄の出入り口、次に向かいのサンドイッチ屋の軒下に移動した彼だが、人を待っているのかいつまでも立ち去る気配もサンドイッチを買う気配もなかった為にお店の人にじろりと睨まれて今の雨の中に至る。あの太っちょおじさんも少しは大目に見てあげればいいのに。彼もサンドイッチひとつぐらい買っても良かっただろうけど。
 癖のある金髪はしなりと癖をなくしかけているし、ジャケットの下に着ているTシャツも薄い胸板に張り付いている。履いているズボンもびっちょりだろう。突然、虚空を見つめていた彼がびくりと身体を揺らし慌ててスマフォを取り出す。液晶画面が濡れることも構わずに光る画面を見つめた。が、どうやら待ち人からの連絡ではなかったようだ。ため息を吐いたのか肩を上下させるとスマフォを再びズボンの尻ポケットにしまい込んだ。

 まったく。あんなイケメンを連絡もなく雨の中に待たせるだなんてなんて酷い彼女だ。いや彼氏というパターンもあるか。どちらでも構わないが人を待たせるということが相手にどういう思いをさせているのかわかっているのだろうか。私はどちらかといえば待つ側の人間だからその心境はわからないが、よし決めた。あのかわいくてかっこいいイケメン君の待ち人を私も待つことにしよう。どうせ予定も何もない休日。彼氏もいないし友達からメールが来る気配もないんだからこの時間を有意義に使ってやる。

その後時間が経過すること1時間。彼は唐突にその場から堪え切れなかった様子で走り去ってしまった。太くて立派な眉毛は道路を挟んだ向かい側からでもよく見え、曇った表情を私の目に映した。私も思わず荷物と傘を手に店を飛び出した。ストールを巻いているが風は冷たく、雨が当たる手や足は冷たさで痛く感じる程。この雨の中長時間待ち人を待つ彼はどんなにその人を考えていただろう。
追いかけること十数分。どちらへ行ったのか方向はわかったけれど、曲道や小さな通りに繋がる道の多いこの場所では彼の姿を見つけることは難しかった。なかなかに足が速いようだ。

『は〜…』

 息を吐き出すと湿気で歪んだ前髪が視界に入る。雨は好きだけど、化粧落ちは早いし髪も落ち着かないのが気に入らない。雨の音や土や緑の濡れる匂いは好き。水たまりに映る街並みを眺めて写真を撮ることも好き。でも。

『あ』

 雨に打たれて待ち人を待つ彼の心境を思えば、やっぱり好きってだけにはなれない。公園のベンチに座って項垂れる彼の姿を見つけて、そう思った。
 一体どこに行ってきたのだろう。先ほどよりも落ち込んでいるように見えるのはさらに雨に濡れて髪が落ち着いてしまっているせい?それとも、背を小さくして下を向いているから?

『あの』

 肩を派手に浮かせて顔を上げる彼に声掛けたこちらまでも驚きそうになる。目を見開いて私を瞳に映した途端に表情に影がさし、瞼を下がらせた。

「なん、ですか?」
『急にごめんなさい。あの、』

 雨の中でずっと立っている貴方を見かけて、気になってしまったものですから。















「って言われたときにはなんだこいつとは思ったけどな」
『……お恥ずかしい限りでございます』
「普通に考えたらストーカーだろ?まあジャパニーズだったしなかなか見た目も悪くねえと思ったから普通に話してたけど」
『ほんっと〜になんでこんなに性格悪い眉毛と付き合っちゃったのかな私は』
「いっていてぇ!!おい頭ぐりぐりすんなっ」
『もう今度のデートで予報が雨だったら1時間は待たせてやる』
「悪かったって、拗ねるなよ」
『うるさい。持ってきたミルクティーのブラマンジェあげないから』
「ごめん許してくれ、この通り」

 両手を合わせて片目を瞑る彼のことが本当に愛しくて愛しくて。私は彼に相当弱いし滅法甘い。










的な感じの雨に打たれてるアーサーさんすごくいいなって思ったお話。雨に打たれる中で話しかけて、その後どこかのお店に入って温かい紅茶とビスケットをお供に話を聞いていたら途中ぼろっと涙を溢れさせるアーサーさんまで妄想したものの文章に表せませんでした。悔しい。その後お付き合いすることになって今に至る的なね。ちなみにアーサーさんが走っていったのは恋人のお家で行ってみたら部屋はもぬけの空でした的な感じです。

ああ、俺は捨てられたのか。

空になった部屋とネームプレートのなくなったドアを見て数秒後に悟ったアーサーさんは自然とよく恋人と一緒に散歩した近場の公園に足が向いてしまってあの公園にいたというわけです。雨の降る外を眺めていたら、雨に打たれる彼に傘をさしてあげたいなと思いこんなお話が浮かびました。ちなみに浮かんだのは講義中です。つまり授業中です。




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