『……あ、れ』

 今日はアーサーと宅飲みしようとお酒やらおつまみやらを買ってきて、キッチンに立って今からちょっとしたものを作ろうとして、気付いたら今の状況になっていたわけで。
 ベッドに横になっていた私に添い寝するようにアーサーも傍らで眠っていて。しかもオプションでしっかり腕枕をされていたから結構距離が近い。やっぱり綺麗な顔してる。肌なんて私よりも白くてきめ細かくて、睫毛も金色で長くて、薄い唇もほんのりピンク色。リップ塗ってたよね、確か薬用の色なしのリップ。

『あ』
「…ようやく起きたな、ばぁか」

 目を開けて、口元には笑みを、眉と目元には困惑を浮かべるアーサーに意味が分からずただ目を瞬かせると身体の違和感に気が付いた。身体が重く、だるさと寒気が身体中に満ちている。

「物音しねえし返事もねえしで見に行ったら倒れてるし、ほんとに俺がいてよかったなぁ?」
『…もー、余計なお世話』
「あ、言ったな?誰がここまで運んでやったと思ってんだよ」
『ねえ、着替えさせた?』
「下着は見てねえから安心しろ、そこらに置いてあったパーカー着せただけだ」

 キャミソールの上にパーカーってことは、キャミまでは見たってことだろうけどキャミって下着に入る気がするんだけど。まあいいか上はともかく下は揃いの下着じゃなかったし見られてなくてよかったよかった。

「おまえ結構胸あるんだな、パッド入れてるのかと思ってたわ」
『セクハラでやりちんの最低男』
「ばーかこれは経験豊富って言うんだよ」

 どちらでも同じ意味、私にとっては。

「飯はとりあえずおまえが作ったやつでいいよな。冷えぴたとか薬はどこにあるかわかんねえから買ってきた」
『ん、ありがと』
「あとは人肌であっためりゃ熱なんてすぐ下がんだろ」
『ちょいちょい下ネタ入れるのやめて』

 下ネタを他愛ない話に盛り込んできゃあきゃあ言っている女の子と違って私は冷める。だからこいつと私はそういう仲にならないのだろう、ただ一緒にご飯食べて飲んでいろいろしゃべってグッドナイトウィーン(わからない人はぐぐってみてね)。
 つまり。私はアーサーとはそういった意味で寝ることはまずないということ。現に今もこうして添い寝してもらっているのに私はまったく胸が高鳴ったりしない。私がこいつを好きじゃないわけではない。ただ諦めているのだ、こいつが求めているようなかわいい女になんて私はなれないと。

「なんだよ、いつにも増してノリわりーな」
『うるさいばかほっといてばか帰れもう帰ってばか』

 ただの八つ当たりだ。こいつは私とはそういった仲にならなくてもいいと、その距離感が心地いいのだと、ただそう思って私を頻繁に誘うのだと。そう言っている大学の顔見知りの言葉を聞いたのはいつだったか。わかっていることだった。そんなこととっくに自分でわかっていた。しかし他人の口から聞いてみるとそれは破片となって心臓に突き刺さり、今もその傷跡は時折痛んだ。

「俺もおまえも明日は全オフなんだしこのまま居てもいいだろ。あ、この間買ったっていう映画見ていい?」
『…帰って、お願いだから』

 声が震えてしまった。もう一緒にいても苦しいだけだった。ただの友達と思われることが彼にとって心地よくても私にとっては胸を締め付けるだけの枷だった。

「…俺のこと、嫌いになった?」
『嫌い、近くに居ないで、もう、苦しい…っ』

 男女間に友情は存在しないというのは本当だ。今までならそんなこともないだろうと思っていたのに、自分の下心に気付いてしまったのだから。

「なんで苦しいんだ、おまえ俺なんてどうでもいいって言ったくせに」
『どうでもいいなんてあんなのただの虚勢で、もう友達なんて思えないし私のことも思わないで、もう帰って!!』

 悲鳴に近い声ですべてをぶちまけ、すべて終わってしまったと思った。溢れる涙を見られたくなくて顔を腕で覆った。色気も何もない呻き声のような鳴き声を洩らす私の傍らで、ぽつりと言葉が耳に入った。

「なんだよ、それ」

 腕を掴まれ顔を露わにされると、悲痛な表情のアーサーが震える腕で私の手に頬を寄せた。指先、甲、手首と唇をふれさせると、私の手を自身の胸に押し付ける。

「わかるか?俺、おまえの前だといつもこんなんなってるんだぞ」
『な、んで、こんなに早く』
「俺が今まで、おまえを友達だと思ってたのはなんでだと思う?」

 何故。異性の友人というのはとにかく都合の良いものだと思っていたからではないのだろうか。

「おまえの中に、俺はいないと、思ってたから、……だ、から…っ」

 見下ろすその顔から涙がこぼれ、私の頬にいくつもの粒が落ちる。あったかい。ぼろぼろと頬や高い鼻を伝って落ちる涙は私のものと混ざり、首筋や耳元へと伝う。
 ああ、どうしよう。私はどうやら。

 とんでもない勘違いをしていたようだ。






はい。あるあるネタの風邪とまたまたあるあるあネタの両片思いでございます。大学生のアーサーさんはきっともてもてだと思うんですよね。この夢主ちゃんは結構ドライな方だけれどもアーサーさんに好意を持っているけれどもそれを伝えれば関係性が崩れると思っていまして。アーサーさんも恋人になれないのなら友達でいる方がいいと思って同じく想いを伝えられなくて。そんな感じのものです。アーサーさんはプレイボーイと見せかけてとってもピュアなハートを持っていたらもれなく私が落ちます。




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