「何でこんな状況になるんですか…」

「さー?あ、ちょっと苦しいからなるべく早めに救出お願いします」

「お前意見言える立場かよぉおお!」

「チェシャ落ち着いてください。僕は分かりました、諦める大切さを」


物の山の下敷きになり顔だけを出している状況のロウに向かってチェシャは叫ぶが手は物を退ける動きは止めないまま。
ビットは諦めた様で力無く呟く。

ちなみにカラーレスも自分の力が宿った包帯でロウの救助を手伝い、ダイヤは女性であるからと省かれていた。

三人掛かりで物を退けていくが少し時間がかかりそうだ。


「おいダイヤ。お前先に鏡探しに行け。オレ達はこのバカ掘り起こしてから追い付くからよ」

「わかった先行くね」


チェシャに促されダイヤは部屋の奥へと向かう。

奥に進むにつれて置いている物の量は増え通路を阻む。悪戦苦闘しつつ、歩いていくと不自然に物が無くなっている空間にたどり着いた。

壁が見えるのでどうやら部屋の奥へと着いたようだ。
キョロキョロと視線を動かすとぽっかり空いた空間の真ん中に豪華な装飾がされた大きな鏡が立っていた。


「あっ、鏡あった」


小走りで近づき、その鏡に触れてみる。


「ボクの家の鏡みたいに何か起こるかと思ったけど…何にも起こらないか」


試しにコンコンとノックをしてみるも、鏡の面が揺らぐこともなく、ただダイヤの姿を写しているだけ。

手掛かり無しか、と頭を掻いていると


「ダイヤ何処にいるんだー?」


後ろからロウ達の声が聞こえてくる。
まだ遠いがやがてここまで追い付いてくるだろう。

鏡に背を向け、出来るだけ大きな声でロウ達を呼ぶ。


「こっち!そのまま真っ直ぐ進んで来て!」


だんだん近づいてくる気配がし、先頭を歩いていたのであろうチェシャが見えてきたので手を降る。


「いたいた。ダイヤ聞いてくれよ!コイツ全然反省してねーよ」

「そんなに酷かったか?」

「んー…私からハ何とも言えないデスネ」

「カラーレスが困る質問は止めなさい」


チェシャ、ロウ、カラーレス、ビットの順に声が聞こえ、やっとダイヤもいる空いた空間へと到着した。
並んでいる順からしたらまたロウが転ばないように見張る様にしているのだろう。


到着した四人は辺りを見ると先程のダイヤ同様に不思議そうにしている。


「なんじゃこりゃ。ここだけ何もねえじゃん」

「不自然デスネ」

「確かに…ダイヤそれが例の鏡ですね、何か変わったことはありましたか?」

「んーん全然!先に調べてみたけど只の鏡だよ。また一から調べ直しだよ」


眉を下げながらロウ達に近づこうと進もうとする。

だが、

それは阻止されることになる。



「………え?」


両腕と肩を掴まれる感覚。

背後は鏡なのに、人なんているはずが無いのに確かに何かに自分の身体を掴まれている。

目の前のロウ達を見ると全員が目を見開き後ろにある鏡を見ている。
冷や汗が頬を伝う、そのままダイヤは顔だけを動かすとそこには


「ダムとディーが決闘をする事になった♪」

「ダムが言うにはディーが彼のがらがらを壊したからだと♪」

「「でも」」

「オレらは仲がいいから♪」

「片割れの物が壊れたらオレの物も壊してやる♪」

「どんな事も共有する♪」

「決闘なんてする必要なんて無い♪」

「「オレ達は仲のいい双子♪」」

「「なあ?オレの片割れ」」


交互に歌いながら全く同じ顔の少年達が鏡から手を伸ばしてダイヤを捕まえて笑い合っている。

鏡には写っていなかった見ず知らずの二人が突然現れた事にダイヤは驚き、声を上げた。


「誰!?いつの間に、」

「あれ?今度は男?」

「いや、よく見ろ片割れ。この子女の子だ。ガサツぽいけど」

「誰が男だ誰がガサツだゴラァ!人の話を聞けよ、ってか離せー!」


自分の背後で話す少年達に眉間に青筋を立てながら叫ぶが


「ちょっとちょっと暴れんなって!」

「あーあ嫌われちゃったね片割れ!」

「お前もな片割れ!」

「交互に話すなややこしいから!!」


少年達は気にしておらず、ダイヤを鏡の中から掴んだままだ。
その場の全員が呆気に取られているとカラーレスが口を開いた。


「双子…ダルムーノとディック…!」

「んー?何か聞きなれた声と」

「見たことのある奴がいると思えば」

「「卵じゃないかーひっさしぶりー」」


怒りを含んだ震えるカラーレスの声に双子と呼ばれた鏡の中の二人は視線をそちらに向け、ケタケタと笑いながら目を細めた。


「知合い…ですか?」


ビットの問い掛けにカラーレスは苦い顔をし、頷く。


「えエ、彼等はダルムーノとディック、通称双子のダム&ディー。私ノ故郷、鏡の国の住人デス。そして私ガこの色の国ニ来ることにナッタ原因…!」



あの時ノ事は今でも鮮明ニ覚えている。


おもしろい物が有るから一緒に見に行こうと手を引かれ、たどり着いた場所には古い大きな鏡。


『これが…ソノおもしろい物、デスカ?』

『『そうだよー』』

『只の鏡ニしか見えないのデスガ…』

『『わかってないなぁーほらもっとよく覗いて見てみなって』』


促されて鏡を覗きこめば一瞬にして写りこんだのは色鮮やかな見知らぬ風景。


『!』

『『なーおもしろいだろ?で、これから試したい事があるんだけど…卵協力してくれない?』』

『え…?ッ!!?』


双子の言葉の意図が分からず振り向こうとした瞬間、ガンッ、とまるで鈍器で殴られた様な痛みが頭に響く。
膝から崩れ、でも倒れぬように前にある鏡に手を付きなんとか耐える。


『痛ッ…』

『ごめんねー卵』

『痛かったよねー卵』

『『でも、暴れられたくないからさ?じゃっ"あっち"でも元気でな?』』

『何ヲ…!?』


手にあった無機質な感触が消え鏡の中へと、自分の体が通り抜ける。
そこからはただ下へ下へと落ちていった。


『『知りたいんだよね、こっちの住人があっちに無事に行けるのかをさ』』


これが色の国ニ来る前ノ最後の記憶。



「アナタ達のせいで私ハ!」

「おーっと、そっちであった事件は全部卵のせいだろう?」

「えーっと、そっちで勝手に記憶喪失を起こした卵のせいだろう?」

「何デそれを…」

「「だってオレ達、鏡越しに見てたから」」


まあ鏡で見える範囲までだけどねー、とお互いに笑い合いながらダムとディーは言うと、でもさぁ、と今度は冷たい目をしてカラーレスやロウ達を見つめた。


「あんたらよく自分達に危害加えてきた奴と一緒にいれるよね」

「理解できねーわ」

「「罪人なんだよ?ソイツ」」


吐き捨てられるように言われた言葉にただカラーレスは唇を噛み締める事しかできなかった。

彼等の言っている事は正しいのだから…。


「…おい」

「「んー?」」


ダムとディーが声がした手前に意識を向けるとそこには鋭く睨み付けるダイヤの顔。


「お前らいい加減にしろよ。これ以上ボク達の友達を悪く言ってみろ。頭に鉛玉ぶちこむぞ」


先程とは違い低く響いた声。辺りもピリッとした空気に変わる。
他のメンバーも怒っているようで、ダイヤと同じくダムとディーを睨み付けていた。


「「ふーん?あんたら、オモシロイね」」


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