アリスが女王の城で消え、そしてメアリーまでも消えた。

事態が悪化し、全員は更に混乱。必死に探し回ったが二人は見つからないまま。

二人が行方不明になってから早数日経っていた。


「何でアリスとメアリー見つからないんだよぉ」


帽子屋邸のお茶会室。そこの長机に頭を沈ませながら家主のダイヤは項垂れる。

各々の椅子に腰掛けた他のメンバー、ロウ、チェシャ、ビット、カラーレスも表情が暗い。
何せ城の中から街の中、森まで捜索したが見つからなかったのだ。

全員の浮かない顔を眺めながらチェシャは口を開いた。


「アリスの奴もしかしたら元の世界に戻ったんじゃねーのか?」


一つの可能性を言うが、チェシャとは反対側に座っていたビットはそれはあり得ないと首を振って否定した。それにチェシャは眉をよせる。


「なんでだよ」

「アリスは自分の世界に戻る時、女王の城で管理している兎の穴を使います。僕もそうではないかと思い、確認したのですが兎の穴を警護しているトランプ兵に確認してもアリスはそこに来ていないらしいんです」

「だからアリスさんは元の世界にハ帰っていないト」

「そう言う事ですカラーレス」


カラーレスに頷きながらビットは眼鏡のブリッジを上げた。また振り出しかよー、とチェシャもズルズルと机に突っ伏す。


「それにしても…メアリーが何も言わず俺達の前から居なくなるって珍しいな」


ロウの呟きに確かに、とその場にいる全員は思った。

夢魔のメアリーは神出鬼没だが、暫く居なくなる場合には誰かに伝えている場合が多い。
そんな彼女が何も言わず自分達の前から居なくなるのはおかしい、何か事件に巻き込まれたのではないかと推測してしまう。


「手がかりがないからもうボクお手上げだよ」


何か進展がない限り前に進めなくなってしまった今の状況にため息を出すダイヤ達。


「…あれハ」

「え?」


重い沈黙が続く中、驚いた様子のカラーレスにうつ向いていたダイヤは視線を上げる。
ロウ達もカラーレスの見つめる方向を見るとそこには小さな壁掛け鏡。

それはダイヤが街のアンティークショップで購入した普通の鏡。だけどどうだ、その何の変哲もないはずの鏡は水面に波打った様に揺らめいている。

見た事もない事態に言葉を無くしていると鏡の中から紙切れが出て来て机の上へとユラユラと落ちてきた。

波紋が止んだ鏡から紙切れへと視線を移す。
よく見ると


『青い少女と白い夢魔、城地下の鏡』


と殴り書きで文字が書かれていた。


「少女、夢魔、地下の鏡??なにこれってか字汚なっ!」

「青い少女と白い夢魔…はアリスとメアリーの事でしょうね。それにしてもこれは一体…」


首を傾げるダイヤにビットは紙を取りながら答え、考えるように顎に手をやる。


「城地下、は女王城の地下の事でしょうか?」

「あー確かにエミリアの城に地下あったな。でもよぉ、あそこ物置と部屋が数個だけあるはずだろ?」

「チェシャよく知ってるな」

「まあ元飼い猫だしなー城中の構造は大体は知ってるぜ。」


へへっと鼻の下を擦るチェシャにロウは流石だなーと感心していた。


「ダイヤさん、チェシャさんは元は女王側にいたのデスカ?」

「うん、昔はエミリア興に使える飼い猫だったんだって。でも今は抜けて野良なんだよ」

「そうでしたか。知らなかったデス。チェシャさんがエミリア様に使えていたとは今の自由好きの彼からは想像できませんネ」

「確かに似合わないよねー」


クスリと笑いあうと話が聞こえていたチェシャがゴホンと大きく咳払いをした。
余計な事言ってんじゃねえって事か。


「オラ、そこの二人笑ってんじゃねーぞ!ロウはロウでその緩くなった顔何とかしやがれ!」


ビシッとチェシャが指差す方を見るとニヨニヨした表情をしたロウ。どうやらカラーレスと笑い合うダイヤに萌えたらしい。

こんな時でもロウは通常運転である。


「ダイヤの笑い顔可愛い!超可愛い!」

「ウザいこっち見んな」

「相変わらずロウさんにハ塩対応デスネ、ダイヤさんは」

「いつもの事なのでほっといても大丈夫ですよ」

「とにもかくにも!!!とっとと女王の城に行くぞテメーら!!!」


自由にし始めたダイヤ達に痺れを切らせ、チェシャは叫ぶのであった。


***


女王の城、地下物置部屋。


「きっっったない!!!」


部屋に入った瞬間にダイヤは第一声で叫んだ。

目の前に広がる光景はあらゆる物が錯乱しそこかしこに散らばっている。
中には明らかに高級そうな物もあり、壊れている物もある。
ダイヤは取り敢えず見ない振りをした。

ダイヤに続いて物置き部屋に入って来たメンバーも目を丸くする。


「うひゃーコイツはスゲェな。おいビット。お前の管轄なのにこれは酷過ぎねえ…か…」

「………」


足元に転がっているガラクタか調度品か分からない物体を避けながら中の様子を見渡したチェシャがビットの方に顔を向けると、ビットは眼鏡のレンズを真っ白にしてわなわなと震えていた。
真っ白なレンズのせいでどんな表情をしているか分かりかねるが、言えることは一つ。


(あ、これは怒ってんな)

「ああああ!!!!ここ数日間の間に探索したトランプ兵の皆さんの仕業ですね!!!!!絶対!!!!」


ガクリと勢いよく膝をつき叫ぶビット。
発狂する様子を見る限りトランプ兵はどうやら雑な人間が多いようだ。

そんな彼に落ち着けよと声を掛けようとチェシャは手を伸ばすが、ビットは勢いよく捲し立てた。


「だからあの人達にはここは任せたくなかったんだ!!!ここを探すならジョーカーさんかツーさんにって伝えたはずなのにこの有り様!!!」

「おーいビット…?」

「エースさんか!?ナインさんか!?ええい誰でもいい!!ここには希少価値の有る物や値が付けられない物まで有るって言うのに…!!!」

「おーい」

「この事を何と女王に報告すればいいんですか…!!!」


マシンガントークが終わり語尾を小さくしながらビットは頭を抱えた。いつもはピンと天に向かって立っている白い兎耳も心なしかへにょんと垂れている。


「大変みたいデスネ」

「オレとは別の意味で苦労人みたいだな」


柄にもないビットの様子にカラーレスはチェシャに耳打ちするが、城勤めは大変だなと苦笑いするしかなかった。

負のオーラを背後に背負い凹んでいるビットの肩を今まで黙っていたロウはポンと叩く。


「ビット次頑張ろう」

「君は本当にマイペースですね…」


振り向いた先に親指を立てているロウ。はあ、とビットは溜め息を吐き立ち上がる。


「この件については後日締め、じゃない報告する事にします。今は目的を果たしましょう」

「そうだな」

「うん!」

「えエ」

(今締めるって言いそうになったな)


チェシャは心の中で呟いた。今口に出したらビットに魔術書の角で殴られそうな気がする為、絶対に口には出さない。


「で、メモに書かれてた地下の鏡ってヒントから鏡を探せばいいんだよね?」

「そうですね。僕の記憶が正しければ姿見の鏡があったはずです。置き場が変わっているので何処にあるのか…」


ダイヤの問いにビットは答えるが、首を傾げた。
前回この部屋に入った時は鏡はまだ手前に置かれていたが今はそれがない。


「(と、言うことは奥に移動されているのでしょうか)多分この部屋の奥にあると思います。まずは進みましょう。それとダイヤ、ロウがまた何かを起こす前に見張っておいてください」

「ごめんビット。もう遅いや」

「はい?」


ダイヤの視線の先をビットも見ると、ロウが調度物に足を取られ倒れていく途中であった。


「あっミスった」


お決まりのロウの呑気な声と


バタバタガシャンガシャンッ!


周りの物と棚を巻き込みながら倒れる音と


「アアアアアアッ!!?」


ビットの悲痛な叫び声が部屋の中に響き渡ったのだった。

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