「皆(みな)集まってくださり感謝しますわ」


ハートの女王城の大ホール。
その城の主でこの国の女王、エミリアは住人一人一人の顔を見ながら話す。

その隣ではジャックのタクトが控えている。


「今日は皆を労るためのパーティー。無礼講ですわ、今回はこの城の中をどこでも自由に歩いて頂いても宜しいですわ」

「どこでも自由!?エミリアさまのお部屋覗いてもいいかしら!?」

「……アリス」


どこでもとの言葉にアリスは反応し、ハアハアと興奮しながら言うと隣にいたビットは何とも言えない顔をする。

アリスなら本当にやりかねない。


「但し、立ち入り禁止部屋にはトランプ兵を設置しておりますので…決して入らないように。首が無くなるかもしれませんのでお願いしますわね?」


最後の一言に招待された住人達は全員ゾッとしたそうな。

エミリアの挨拶が終わるとホールの扉が開き様々な料理が運び込まれてきた。


「ワタクシのお抱えシェフが腕をふるいましたわ」

「旨そうっすー!」

「ここのシェフの料理ほんっとうにおいしんだよねー食べるぞー!」

「リエヴルよだれ」

「…クロッカさん、今日は他の皆さんもいるから押さえて…!」


目を光らせよだれを垂らすリエヴルにはロウが、手を合わせ嬉しそうに話すクロッカにはビルが言う。

クロッカに至っては大食いで燃費が悪いため本当に料理を食べつくし兼ねないのでビルはハラハラとしている。


「もちろん、デザートに最高級のお酒紅茶コーヒーも取り揃えてますわ」

「デザート!甘くて美味しそうなのが沢山なの!」

「おいキャンディ頼むから時計屋クロッカみたいに全部食べ尽くす様な真似はよせよ?」

「チェシャは心配性なの、大丈夫なの………多分?」

「多分ってなんだよ!?」

「最高級の、コーヒー…!!!」

「目の色変わったでこの子」

「いつになく嬉しそうなダイヤ超絶可愛い…!!!」

「アンタに対してはもう何も言わんわ」


キラキラとした目をするキャンディとダイヤにそれぞれチェシャとメアリーがツッコむ。

ちなみにダイヤの嬉しそうな顔にやられ膝から崩れ落ちたロウを指摘する者はいない。
…唯一リエヴルが慌てふためいていたが。


「………」


騒がしくなり始めたダイヤ達を無言の笑みで見つめるエミリアにタクトは冷や汗を流した。


「(この無言の間が怖いぞ…!)エ、エミリア」

「あらごめんなさい?…ではごゆるりとお過ごしくださいませ」

「沢山飲み食いするぞー!」

「「「おー!!!」」」


パーティーの始まる言葉にダイヤ達は声をあげる。
それにエミリアはまた笑顔のまま無言となり、タクトとビットは青ざめる事になった。





「おや?ダイヤさん達ハ?」


小皿に料理を取り歩いてきたカラーレスは首を傾げる。

目の前には夢中になってケーキを頬張るキャンディに人参スティックを食べているビットがいた。

カラーレスの質問にビットは答える。


「ダイヤ、ロウ、アリス、リエヴルさんはタクトさんにお説教されてます。チェシャも巻き添えをくらって連れていかれましたが」


チェシャさん…とカラーレスは遠い目をした。
巻き添えになりとはつくづく付いていないものだ、と考えていたら


「「「ただいまー」」」


と拍子抜けするほど明るいダイヤとロウとメアリーの声が聞こえてきた。


「君達タクトさんのお説教は終わったのですか?」


ビットの問い掛けに三人の後ろにいた、若干げっそりした顔のチェシャが答える。


「それならメアリーが幻覚使ってオレらを助けてくれてよ、逃げてきた」

「隊長さんは今ウチ幻覚相手に説教中やで〜」

「何してんですか?!」


逃げてきたの言葉に焦りながらビットは叫ぶ。
メアリーはにやにやとしてやったりとしていた。

ちなみにまだパーティーが始まって間もないのに、早くも疲れてげっそりとしているチェシャにキャンディがアップルパイを渡して労っていたのは蛇足である。


「だって隊長話し長いし」


いつの間にかコーヒーを取ってきたダイヤは一口飲み、笑う。
それにずれた眼鏡を直しながらビットは肩を落とした。


「随分けろっとしてますね…」

「まあダイヤは八割くらい聞き流してたからな」

「アンタもやでロウ」

「え?」


そうか?と首を傾げたロウにメアリーは頷くが、ロウは自覚していないようだ。


「で、君達と一緒にお説教されてたリエヴルさんは?」

「あー…リエヴルの奴だけは逃げ遅れてさ」

「置いてきてもうたわ」

「鬼ですか」


テヘッと舌を出しながら言うダイヤとメアリーにビットだけがまたツッコみを入れる。

キャンディはケーキに夢中、ロウはまたシスコンを発動して悶えていて、カラーレスはこの流れをただ見守っているだけで、唯一のツッコみ要員であるチェシャは


「男っぽいダイヤと年増のメアリーがテヘって言ってもなぁ…」


と咄嗟に出てしまった一人言を二人に聞かれ、メアリーからはヒールで足を踏まれダイヤからはボディーブローをくらわされて倒れてしまった。

ビットは叫びたくなった。

僕だけじゃ、このメンバーのやる事なす事の収拾が出来ないですよ!?、と。


「皆さん少しいいデスカ?」

「はい?!」


カラーレスが声を掛けるとビットはイライラしながら勢いよく振り返る。


「ビット顔が痙攣してるよ」


ダイヤが言うと失礼とビットは深呼吸をして気持ちを落ち着かした。
君達のせいです、の言葉は飲み込んで。


「すみません。どうしました?」

「アリスさんハ?アリスさんもお説教ニ行って帰って来たのですよネ、先程から姿が見えないのデスガ」


カラーレスのその問いに全員で辺りを見回すがアリスの姿は無い。


「「「………あ」」」


抜けた声を上げたダイヤ達の顔にはすっかり忘れていたと書かれていた。


***


「…ロウくんじゃないけど、迷ったわ」


女王城のとある通路でアリスはどうしたものかと考えていた。

タクトのお説教をメアリーの幻覚のお陰で逃亡することに成功し(約一名は失敗したが)パーティー開場に戻っている途中に皆とはぐれてしまった。

はぐれた原因はアリスが通路ですれ違ったメイドを目で追っていたらダイヤ達が先に行ってしまったとの事だが。

立ち止まってても仕方ないのでアリスは動くことにした。


「エミリアさまのお城やっぱり大きくて広いわ。元の世界に戻るためにここのゲートを使いに来る事もあるけど、その時はビットくんが案内してくれるし。こんなふうに自由に歩き回るのは初めてだわ」


今日はエミリアからも立ち入り禁止の場所以外は自由に歩いてもいいと許可が降りているし良い機会だ、見て回ろうとアリスは決めた。

あわよくばエミリアの部屋があったら見てみたいと言った下心はない…はず。

暫く様々な部屋を見て回っていると視界にあるものが映った。


「階段?ここは一階だけどこの階段は下りだから…地下?」


地下もあったのかと感心しているとアリスは周りをキョロキョロと見回す。


「ちょっとだけなら、見に行っても良いわよね?立ち入り禁止ならトランプ兵さんがいるはずだし」


辺りにはトランプ兵はいない。ということはここは入っても大丈夫なのだろう。
アリスは興味本意で地下へと続く階段を下りていく。


「流石に地下は鍵が掛かってるわね」


手当たり次第に扉のノブを触って開けようとするがどの扉も鍵が掛かっていた。

一番奥の扉につき、ここが開かなかったら上に戻ろうと思い扉に触れると


ガチャリ

「開いてる」


どの扉も鍵が掛かっていたのにここだけ掛かっていない。


「ちょっとだけ、」


アリスは息を飲み込むとそっとノブを回し扉を開いた。


この時は

まさかあんなことになるなんて

思ってもいなかった。

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