鏡の国。

そこは色の国とは相対する世界。

これは二つの世界を繋ぎ、様々な運命が交差するボクらの物語。



『…めんね、ごめ…ね』

『謝らな…で。また…』

『…本当にごめんね』


「…」


真っ暗で何もない、ただキラキラとした粒子が浮かぶ空間で目を開いた。

…夢を見た気がする。
なにかとても悲しい夢を。

いや自分は夢魔だ。
夢の自分が夢を見るわけがない。
だとするとあれは


「記憶…」


自分の記憶なのだろうか。
それさえもあやふやで。


「まあええか。さてと」


思考に蓋をして彼女、メアリーは顔を上げる。
感じる朝が訪れる気配。

皆の所へ行こう。
あの居心地の良い場所へ。

小さく笑いながらメアリーは光の粒子になって姿を消した。


***


「あーっ!それボクのパイ!」

「うっせーな。茶菓子くらいで騒ぐなよ」

「くらいじゃない!最後に食べようって楽しみにしてたのに!お前甘いもの嫌いなのに何で食べんだよ!」

「オレは極度に甘いものが駄目なだけなんだよ。てかとっとと食べないテメェが悪いんだよ、めんどくせぇな」

「前のお茶会の時もそうだったし、いい加減にしろよスペンドー!!」

「まーまーダイヤ落ち着けって。俺のパイあげるから。な?」

「もうアンタ達ちょっとは静かにお茶できないのぉ?お茶会は優雅に楽しむものよぉ」


ガヤガヤワイワイといつもより騒がしいお茶会。
この家の主、赤の帽子屋ダイヤは従兄のロウとスペンド従姉のサラを招いていた。

いつもお茶会に参加しているロウはともかく、サラとスペンドは数ヵ月前までは衝突していた仲だが今ではすっかり仲直りしたものだ。


「スペンドお前もダイヤに意地悪しちゃ駄目だろ?」

「あ"?そんなのオレの勝手だろうが。兄貴面してんじゃねえよ」


若干涙目になっているダイヤの頭を撫でながらロウはスペンドに柔らかく注意をするが、スペンドは悪びれた様子もなくテーブルに足を乗せて自分のカップに口を付けていた。


「………」


笑顔で黙るロウ。

そのまま立ち上がりスペンドの座っているイスまで歩いていく。
そしてスペンドの座るイスを掴み無理矢理こちらへと向けた。

無理矢理方向を変えられたスペンドは体勢を崩して驚いた顔をする。


「なっテメェ何しやがる!?」

「妹に意地悪をしない。わかった、な?」


背後に黒いオーラを出しながらまたニコリと笑うロウに思わずスペンドはゾクリとした。

あと足をテーブルに乗せない、わかったか?ともう一度言われスペンドはただ頷いた。

ロウはそれを確認すると満足そうにした。
いつの間にか背後の黒いオーラも消えていつも通りである。


「よし。じゃあ俺お茶菓子取りに行ってくるよ。ダイヤキッチンの戸棚に何かあったか?」

「確かクッキーあったと思うけど」

「わかった」


そのままロウはキッチンに行くため部屋から出ていく。
ロウの姿が見えなくなったのを確認するとスペンドは項垂れた。


「はあ〜っちくしょう。アイツたまにキャラ変わるよな。うっぜえ…」

「スペンちゃんダサいわぁ」


スペンドの向かい側に座って一連の流れを見ていたサラはクスクスと笑う。
それにスペンドは彼女を睨み付けるがサラは尚も笑い続けている。


「まあダイヤちゃん絡みではあんなふうだけど日頃は…」

ガシャーン!


サラが台詞を言い終わるより先にキッチンの方から何かが倒れる音がした。
音の原因が何なのかすぐに理解する。


「…ロウの奴転んだな」


ポツリとダイヤが言うと


「あのドジ癖がなければねぇ…」

「あんな奴に怯んだのかよ…オレだっせえ…」


サラとスペンドも溜め息を溢した。


「ボクちょっと見てくるよ…ったく」


イスから立ち上がったダイヤがキッチンへと向かおうとしたその時、部屋にもう一人現れる。


「お邪魔すんで〜」

「メアリー。いらっしゃい」


何もなかった空中から現れたその人物はメアリーだった。メアリーは慣れたようにストンと降り立つ。


「あら夢魔のオバさまじゃない」

「お姉さん!!!や。お嬢ちゃん」

「ちょっ…二人共会って早々に喧嘩すんのやめろよな」


サラの発言にすぐに反応するメアリーの目が笑ってはいないのにダイヤは気づき冷や汗を浮かべた。

この二人どうやら俗に言う犬猿の仲の様で。
サラはいつも年増やオバさんとメアリーの精神を逆撫でする呼び名を言っている。
そこから口喧嘩と言ったのがいつもの流れだ。

ちなみにスペンドも女の喧嘩怖ぇと言葉を漏らして距離を置いていたのは蛇足である。


「てか喧嘩するためにここに来たんちゃうねん。お茶を楽しむためやけんな」

「それもそうねぇ」


その言葉にサラも同意し一先ず休戦となる。

イスに座ろうとしたメアリーだが、動きを止め急にバッと顔を上げてある一点を見つめた。
視線の先には壁に掛けられた、


「その鏡…」

「え?鏡?」


聞き返したダイヤはああ、と言う。


「これ?いいだろ街のアンティークショップで一目惚れしたんだー。これがどうかした?」

「いや…何でもないわ」


鏡から視線を外して座ったメアリーに不思議に思う。


(前にもこんな似たような事があったっけ。…まあいいか。何もないよね)


気にし過ぎかと結論付けダイヤはメアリーのお茶とロウの様子を見るために一旦部屋から出ていった。

周りに悟られぬ様にメアリーは眉を寄せる。


(なんやろか…今あの鏡から)


視線のようなものを感じた。




クスクス。


「なあ片割れ」

「なんだ片割れ」

「おもしろい世界が見えるぜ?」

「本当だ。こちらとは違う、酷く鮮やかな世界だ」

「だろ?で、見てみろよ」

「あれは…へぇ?これはこれは」

「時が来るまでこのゲートは閉じておこう。でもいずれ」

「扉---ゲート---は開く」

「楽しみだな」

「そうだな」


クスクスクス。


誰かの笑い声と共に鏡が一瞬、波紋を浮かべた。
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