柔らかい芝生の感覚。
生い茂る木々達。
頬に当たる風にここは室内では無く野外だと改めて思い知らされる。
しかしこの景色は自分達の知る森の色ではない。
「植物が白い…」
「ええ、木も花モ全てが白イ。それがここ我が故郷、鏡の国【白の国】の特徴デス」
白い葉、白い幹の木を見て呆然としながら呟くビットに笑いながらカラーレスは答える。
綺麗デショ?と目を細めながら景色を見つめるカラーレスに経緯はどうであれ故郷に帰ってこれた事に喜んでいるのだ。
その姿を見つつチェシャは視線を下に移すとある事に気がつく。
「なあ何で地面は色が若干違うんだ?白一色なら地面の草とかも真っ白のハズだろ?」
チェシャの言うとおり地面は白くは有るが濃淡が違う部分があり四角形の模様が幾つもある。
「本当だ」
「それハですネ。地面は市松模様となっているんデス」
「市松模様?何でだ」
首を傾げるロウ。あとの二人も不思議な顔をしている。
「その理由ハこの国がチェス盤となっているからですヨ」
「チェス盤…?」
「説明するト長くなりますノデこの話はここでおしまいデス」
ポンと手を合わせ話を区切るカラーレスにロウ達は浮かんだ疑問が聞けれなくなる。
カラーレスはもう何も語らないといったオーラを笑顔で醸し出しており、これ以上は詮索ができないと悟る。
「そうですね…しなくてはいけないことから考えていきましょう。アリス、メアリー、そしてダイヤの行方ですね」
指を三本立て冷静に話すビットにカラーレスは頷く。
「ええ。三人とも鏡のゲートに通っているハズなのデ鏡の国にいるはずデス」
「ダイヤ…っ」
ロウはぎゅっと拳を握ると駆け出しそうとするがそれはカラーレスに腕を取られ阻止される。
「どこに行くのですカ。ロウさん」
「どこってそれはダイヤを探しに、」
「今は軽率な行動は慎んでくださイ。ここは鏡の国。アナタ達が住んでいた色の国とは違っテこの国は不安定なんデス」
(…不安定?)
カラーレスから出たこの国が不安定と言う言葉にビットの耳は反応しピクリと動く。
チェシャの方に視線だけを向けると彼も同じく引っ掛かったようだった。
しかし口は挟まずロウとカラーレスの様子を伺う。
「でも」
ロウは言い返そうとするがカラーレスの真剣な表情に口を閉ざした。
「お願いシマス。ダイヤさん達を探す当てはありますカラ、私を信じてくださイ」
「……わかった。ごめんカラーレス」
「イエ」
「あの、所でその当てとは…?」
落ち着いた二人の様子にビットは安堵すると先程のカラーレスが行った"当て"に疑問を口にする。
ビットの方へとカラーレスは振り向きまたいつものようにニコリと笑い掛けた。
「白の女王の所へ行きましょウ」
***
「我が息子よジャバウォックに用心あれ!喰らいつく顎あぎと引き掴む鈎爪!」
「ジャブジャブ鳥にも心配るべし、そして努(ゆめ)」
「燻り狂えるバンダースナッチの傍に寄るべからず!」
「………この後の続きって何だったっけ」
「悪いな片割れ忘れちまった」
「仕方ないな片割れ。さて、」
「「この子どーしよっか」」
同じ顔をした少年達ダム&ディーは赤い少女の顔を覗き込む。
赤い少女、ダイヤは気を失っているのかピクリとも動かずダムの脇に抱えられていた。
「まーゲート内で暴れられたからつい薬使っちゃったよね」
「そんなに強くない薬だから大丈夫だよな多分」
「痺れが少しの間残るくらいかな多分」
「さーて国のどっかに放置したら良いんだろうけどどこがいいかなー」
「俺らの後に付いてきた奴等は卵もいるし白の国に行くだろうな」
「て事はその真逆に赤の国とか?」
「名案だな片割れ」
「"彼女"も赤い物が好きだろうし気に入ってくれると良いな」
「「せいぜい楽しませてくれよ」」
口端をつり上げて双子は笑い、東に向けて歩き出した。