鏡から彼らを見ていた。

あちらの世界に送ったハンプティダンプティのイスタは記憶を無くし、自らを無色の住人カラーレスと名乗った。

そして自分には無い色を欲して非道をつくし、色の住人達を傷付けた。

なのに

彼らは許した、イスタの罪を。


なんでだろうか?


自分達に害をなした者を許す彼ら。

ああ、なんて、なんて、


オモシロいんだろう!!!



「「アハッアハハハッ!」」

「何だよコイツら…」


口の端を上げいきなり笑い始めた双子にダイヤは頬を引きつらせる。
捕まれている腕は外される事はなくびくともしない。ロウ達も得体の知れない相手にダイヤが捕まっているので下手に動けないでいる。

どうしたものかと思考を巡らせていると双子の笑い声が小さくなっていく。


「アハハ…ハアー…なあ片割」

「何だ片割」

「おれの考えている事わかる?」

「勿論わかるさ。当たり前だろ?」

「流石おれの片割!」

「じゃあ…」

「「連れていっちゃおうか」」

「は…?」


連れていく?どういう事?と困惑しているダイヤを見ながら、にやりと目を細め双子ダムとディーはダイヤの腕を鏡の内側へと引っ張った。

引っ張られた反動でダイヤの半身は鏡を通り抜けるとそこから少しずつ吸い込まれていく。


「やっ何これ!?身体が勝手に鏡に入ってく!!!」

「アハッあんたの事気に入ったからー」

「アハッ特別にー」

「「鏡の国へご招待ー!アハハハッ!!!」」

「はあああ!?ふざけるな!今すぐ止めろ!!」


半狂乱になりながら身をよじるダイヤにダムとディーは「もう止められないよなー」とまたケタケタと笑いだす。

どんどん鏡の中へと吸い込まれるダイヤ。

今まで動くことを躊躇していたロウは弾かれたように駆け出した。
嫌な予感がする。ここで止めないとダイヤと離れ離れになり一生会えないような気がした。

ロウは鏡へと腕を伸ばす。


「ダイヤァ!!!」

「っ、ロウ、ロウ!!!」


ダイヤも必死に抵抗しロウに近寄ろうとするが、ロウの指がダイヤに触れる前にダイヤは鏡の中へと吸い込まれた。


「…嘘だろ?」


間に合わなかった。

愕然と呟くロウの声。


「おいおいマジかよ…鏡の中に全部入っちまったぞ?!」

「そんな…」


後ろから駆け寄ってきたチェシャとビットも驚きを隠せないでいる。

双子のダム&ディーに連れ去られたダイヤ。


一体どうしたらいいのか…


「皆サン退いてくだサイ!」


途方にくれかけた彼らに一番後ろにいたカラーレスは叫び己の腕に巻いている包帯を操り鏡の中へと飛ばした。
カラーレスと繋がっている包帯はそのまま鏡の中へと吸い込まれた。


「やはりまだ繋がっていますネ。ロウさん、チェシャさん、ビットさん!早く鏡ノ中へと入って下サイ!ゲートが閉じないうちに早ク!!!」

「あっ、ああ!」

「おう!?」

「わかりました!」


カラーレスに急かされロウ達は鏡の中へと飛び込む。

全員が入った事を確認すると最後にカラーレスも鏡へと飛び込んだのだった。


部屋の中に静寂が満ちる。

そこにポツリと声が落ちてくる。


「…。騒がしいから様子を見に来たら、あの双子は何を考えている?これ以上駒を増やしてどうするつもりだ?…まあ傍観者の私には関係ない、興味はない。」


黒く長い兎の耳が揺れた。


***


「んなぁあああああ!?」


チェスの駒や鏡が浮かぶ青い空間にチェシャの叫び声が響き渡る。
ダイヤと双子の後を追いかけ鏡へと飛び込んだロウ達は急降下していた。


「チェシャ、煩いですよ」

「いやテメーの手元の方がウザいからな!?どっから出したその手帳とペン!!」


この空間に入ってから数分は経過しているだろうにいまだに叫び声を上げるチェシャを咎めるビットだが、その手には灰色の手帳と青いペンが握られておりガリガリと異音を出しながら現在の状況を目にも止まらぬ早さで記録していた。


「仕方ないでしょう!…こうでもしないと落ち着かないのですよ。彼女も同じ目にあってあちらに連れ去られたのではと思うと心が何故かざわついて…」

「ビット…」


彼女とはアリスの事だろう。

地下の部屋で消えたアリスにメアリー。
二人もあちら側、つまり鏡の国へと行ってしまったのではないかとビット達は考え至っていた。
メアリーは経験値等、見知らぬ土地でも何とかなるのかもしれないがアリスは異世界からやって来た普通の少女。
無事であるか気が気じゃない。


「ダイジョーブだって」


ペンを走らす手を止め俯くビットにチェシャはへにゃっと安心させるように笑ってやる。


「アイツがそう簡単にやられる奴だと思うか?あんな図太い神経してんだ、無事に決まってらぁ。寧ろ鏡の国の女追っかけてるかもな」

「…ふふっそうかも知れない」


小さく笑みを溢すビットにチェシャはやれやれと肩をすくめた。しかしコイツはいつからアリスを特別視するようになったのだろうか?とチェシャには検討もつかなかった。


「それにしても」

「ん?」


先程の声のトーンや雰囲気からはうって変わってビットのくるりと表情は明るくなる。


「まさか鏡の国へと行くことになるとは思いもしませんでした。嗚呼なんて貴重な体験!!!」


またもや異音を発し始めたビットの手元。
若干興奮しているように見えるが気のせいだろうか。
チェシャは叫ぶ。


「オイイイイイイ!!おまっさっきとのテンションの違いっ!!!」

「貴重な出来事を記録する白兎の性には逆らえないんですよ!!」

「知るかよおおおお!!!」

「だから煩いです!静かにしてくれたまえ!」


チェシャとビットの痴話喧嘩を聞きながらロウは思い詰めた表情をしていた。
それに気づいたカラーレスはロウの近くへと近づく。


「ロウさん大丈夫ですカ?」

「俺は別に…大丈夫だよ。ただダイヤが無事か気になって」

「…すみまセン。私ガもっと早く動いていたらこんな事には。追尾しようト飛ばシタ包帯もダイヤさんを見失っテ失敗してしまいましたシ…」

「カラーレスのせいじゃないさ」

「ハイッ…双子の目的が何か分かりませんガ、必ずダイヤさん、アリスさん、メアリーさんを見つけ出しまショウ」

「だな!」


笑いあい前を向くと突然真っ白な光りに包まれる。

目を瞑り、開くと視界に映ったのは真っ白で幻想的な木々達。


「ここは…?」

「久しぶりですネ。白の国」


そう呟いたカラーレスの声色には懐しさが滲んでいた。

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