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音もなくsourire


 最近の私はお昼休みになると、自分の席から移動して女友達とお弁当を食べている。最初に声をかけてくれた子には、すごく感謝!
 クラスの子は皆可愛くて優しくて、いいクラスだなぁ。まだ、緊張することはあるけど。

 お弁当も食べ終わる頃になると、小さい声で囁くように飛び交うのは恋バナや誰が格好いいかって話題。
 私は聞いているだけの事が多いけど、月島くんの名前が出てきて思わず反応してしまった。

「月島くんってモテるんだね」
「そりゃ、あれだけ背が高くて格好良かったら!」
「蛍くんって名前もいいよね!」
「ねー!」

 人を好きになるのに名前って関係あるんだろうか。いや、憧れの人というのは全てのことに反応してしまうものかな。
 そういうのに疎い私には難しいけど。

「なまえちゃんにはいないの?そういう人!」
「ええ!?私?」
「あはは、すっごい動揺した!」

 からかわれるのはいつものパターンだ。でも、皆の顔が微笑ましいと言っている。こういうことに関しては、やっぱり皆先輩だなぁ。

「私はそういうのは……」
「そっかー。放課後はずっと家の手伝いしてるんだっけ?」
「毎日じゃないけどね。でも、お店もケーキも好きだから」

 そうだ。皆が部活やバイトや恋バナしている時間に、私はお店に立っていることが多い。でもそれを後悔しているって訳じゃない。
 ケーキを作るのが好きで、お父さんとお母さんの作ったお店が好き。自分もいつか職人になりたいと思っている。

 自営業が大変なのはよく分かっているし、お母さんの教訓通り経営を学ぶ為に大学には行くけどね。

「うんうん!なまえちゃんの作るお菓子美味しいもんね!」
「そうだよね。それに親が尊敬出来るって普通に羨ましいよ」
「えー!あんたの親、公務員で安泰だしいいじゃん!」

 あとはもう話が脈絡なくずれていく。でもそれが楽しい。私は作ってきたお菓子を出しながら、皆の話を聞いていた。
 途中で山口くんとご飯を食べている月島くんと目が合った気がしたけど、気のせいだよね?



 放課後、数学の授業で残りは宿題だと言われたプリントを仕上げていた。家でやるより集中出来るし、あとちょっとだから。

「……みょうじさん?」
「あれ、月島くん?」
「珍しいね」

 月島くんはなんで教室に戻ってきたのだろう?教室にはもう誰もいなくて、夕日が傾いてきた。斜め前の机がガタンと鳴って、何か取り出す音が聞こえる。
 忘れ物かな。そう考えている内に最後の問題が解けて、私も立ち上がった。

「私ももう帰るよ、部活頑張ってね」
「……あのさ」
「ん?」

 顔を横に逸らしたまま眼鏡を上げ直している月島くんを見た。大きな手で鼻と口が覆われていて、表情が少し見えにくい。

「今日のアレ。お店で売ってるわけ?」
「へ……?」
「……昼の。フロランタンに見えたんだけど」

 はーっと溜息をつくのは月島くんらしい。早く気付けという事かな。

「そうだよ。でも売り物じゃないの。私が作ったやつだから」

 タッパにそのまま入れてきたものを見せる。アーモンドの流し方が均一じゃないし、まだまだ売り物にはならない。

「……あ!」

 ぼんやりとどう工夫するかを考えていると、伸びてきた手に最後の一つを持っていかれた。顔上げたら、もう月島くんの口に納まっていて。
 食べられた!

「ふーん。土台のクッキーも焼き過ぎじゃないの?」
「……うん、そうだよね」
「これはこれで美味しいけどね」
「ほ、本当?」
「ごちそーサマ」

 それだけ言ったら、月島くんはもう教室の外にいて。長い足に追いつきそうもないし、行く先は別だから追わないけど。
 美味しいって……言ったよね?

「……っか、帰ろう!」

 誤魔化す様に大きな独り言を呟いて、鞄を引っつかむ。失敗作でも、売り物にならなくても、美味しいって言って貰えるのはやっぱり嬉しいなぁ。



***続***

20131027

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