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ペースに染まる


 月島くんが珍しく、制服のまま店にきた。いつもは休みの日が多いのに。お店で制服姿の月島くんに会うのは初めてだ。
 それも、閉店間際のすごく遅い時間。部活頑張っているんだなぁ。

「いらっしゃいませ」
「疲れが取れるやつ」
「……へ?」
「あと舌触りがきつくなくて飲み込みやすいやつ、あるの?」

 いきなりのリクエストに何でと顔を傾けたら、あからさまに眉毛が寄って嫌な顔をした後、横を向いてしまった月島くん。
 うん、いつも通り……のはずなのに、変。何だか、疲れているみたい。

「部活、大変なの?」
「……え?」
「あ、ごめん!疲れてるみたいだったから」

 余計なことを言ってしまっただろうか?月島くんの顔を見るのが怖くて、ムースのチョコレートケーキとフルーツのジュレが乗ったケーキを勧めてみる。
 月島くんは両方ちょうだいと言って、小さく溜息を吐いた。

「ウチのバレー部、熱血な奴が多くてね」
「へー……青春だね!」
「は?」
「……すみません」

 今度は分かりやすく不満を漏らされた。別に馬鹿にしたつもりはなかったんだけど。部活に打ち込んでいるってイイコトじゃない?

「あ、でも!バレーって楽しそうだよね。私、たまにテレビで見るよ」
「そう」
「うん。月島くんはすごく背が高いもんね。ブロック上手そう」
「みょうじさんは、おチビだもんね?」
「……く!否定出来ない!」

 ニヤニヤと露骨に見下ろしてくる、とっても感じ悪い!それでもいつもの月島くんだと思ったら、ちょっと良かったなぁと思う訳で。
 ちょっとだけどね!

「良かった。いつもの月島くんだ」
「……馬鹿じゃないの?」

 馬鹿とか何とか言いながら、月島くんはポツポツ喋ってくれるし、ショーケースの上に買ってくれたケーキを置いたまますぐに帰る気は無さそうだった。
 よっぽど疲れているのかなぁ?



「いいなぁ、部活。大変そうだけど、ちょっと羨ましい」
「……なんで?」
「んー、友達と仲良く帰ったり、寄り道したりするじゃない?合宿とか試合とか遠征とか!そういうの、少し憧れるんだ」

 私は中学の部活も幽霊部員で、やっぱりお店を手伝っていた。お母さんは経営と営業を担っているけど、厨房には立てない。
 逆にお父さんは厨房に篭りきりの人だから、経費削減の為にも少しでも力になりたいと思っている。強制された訳じゃないけど、高校で部活に入る気は無かった。

「はぁ。別に部活の人間と仲良しこよしって訳じゃないけどね」
「そうなの?でも山口くんは仲良しに見えるよ?」

 溜息をついた月島くんは、それきり黙ってしまった。否定したりしないことが、彼なりの肯定ってことでいいのかな?

「坂ノ下商店に寄って帰ろうとか話してるの聞いて、楽しそうだなって思うの」
「少しくらい寄り道して帰ってもいいんじゃないの?」
「頑張った後の肉まんがいいんだよ!特別な味がしそう」

 別に全く休みなく働いている訳じゃない。ちゃんとシフトを組んでくれているし、不測の事態で遅くなる時も連絡している。
 だけど、部活を頑張った後の一体感みたいなの。そういうのは、少し憧れる。

「みょうじさんは、変わってるね」
「そう、かな?」
「ちっとも女の子じゃない」
「それは……!ちょっとショックです」
「何で敬語なの?」

 女の子じゃないとか言われても!確かに流行に敏感かと聞かれたら、全く違いますと答えるしかないけど。甘いものは好きだし!
 でもショックを受けるだけ、自信がないってことなのかも。

「あんまり否定出来ないから?」
「……は、可哀想」
「月島くんは、デリカシーがない!」
「え、そんなこと言うの?せっかく肉まん位なら奢ってあげてもいいかなって思ったのに」

 落ち込んでいた顔を上げると、ニヤーっと勝ち誇った顔をした月島くんがいた。あ、分かり易く喜んでしまったかな?

「え、え?」
「でも頑張った後がいいんだっけ?」
「それは……そう、だけど」

 ここで「わー、月島くんありがと!」とか可愛く言えたら、女の子らしいんだろうか。意地っ張りな私は、自分の言った事を取り消せない。
 からかわれているんだとばかり思っていたから、ぶすっとした顔をしたまま正面を睨んだ。月島くんの鎖骨が、白いシャツから覗いている。

「っく!あはは!ごめん、ごめん」
「月島くん、意地悪い!」
「今度お店終わるくらいに持ってくるよ。頑張った後がいいんデショ?」

 ちょっと冷めるかもしれないけどね。そう言ってケーキの箱を掴んだ月島くんを、はっとして見上げた。
 そしたら、私があんまり間抜けで嬉しそうにしたからか、大声を上げて笑い出す。

 その顔がいつもよりずっと自然でいいなぁって思ってしまった私は、完全に月島くんに踊らされている気がする。



***続***

20131026

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