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静かに灯る


 ここ何か月分かの幸運を、使い切ったのではないかと思う。蛍くんの誕生日に「時間が欲しい」と言った時、もう他の予定があるかもしれない位の覚悟でいたのに。
 「なまえに祝ってもらう予定があるけど?」と言った時の蛍くんは、すごく悪い顔をしていた。でも嬉しいって思っちゃったから、もう負けでいい。
 蛍くんの部活終わりに再集合することにして、公園でお祝いすることにした。どちらかの家がいいかなぁと思ったんだけど、蛍くんが「うるさくないし外にしよ」と言ったから。
 よく考えたら、お家に帰ったらお家の方がお祝いしてくれるよね。二人きりって意味を汲んでくれたかと思うと、胸の辺りがきゅってなった。

「お誕生日、おめでとうございます!」
「それ何回か聞いた」
「何回も言いたいことだよ?」
「……どーも」

 公園の中にある休憩場所みたいなところに腰をおろして、テーブルに箱を置いて準備を進める。蛍くんは部活終わりだろうしお腹空いていると思うし。
 てっきり対面に座るかと思っていた蛍くんが、隣に座ってくれたことが嬉しいのに落ち着かない。このテーブル大き過ぎるからかな。
 辺りが暗くなっていたので、公園の灯りを頼りに箱から慎重に取り出した。何かなんて、蛍くんにはとっくにお見通しだと思うけど。
 私が一回家に帰ってからまた来た時点でバレバレだから、大した問題じゃないし。

「ショートケーキだ」
「うん、蛍くんはやっぱりコレかなって」
「うん。好きだよ」
「お誕生日おめでとう!」
「……ありがと」

 何回か聞いたと呆れないでいてくれる。その事が嬉しいと同時に、テーブルの上でトントンと指を動かしている蛍くんがおかしくて。
 何か可愛い。早く食べたいって思ってくれているのかなって自惚れてもいいよね。フォークを差し出すと、すんなり受け取ってくれた。

「このローソクは何で立てた?」
「一本だけでも雰囲気をと思って」
「火ぃつけないくせに?」
「つけるものがなくて」
「あっそ」

 準備した蝋燭にもツッコミをいれてくれる所を見るに、蛍くんもいつもよりはテンションが高いと思う。お誕生日って特別な日だ。
 あんまり待たせるのもいけないと思うから。

「どうぞ、食べてください」
「なまえんちのホールケーキと装飾違うんだけど」
「うん。売り物じゃ、ないので」
「なまえが作ったの?」
「うん」
「一から?」
「そう、です」

 膝の上で手を握って、緊張と不安をやり過ごそうとする。私はどんな顔をしたんだろうか。蛍くんがフォークを持っていない方の手で私のおでこを弾く。
 地味に痛い、痛いですよ。蛍くん。それなのに蛍くんの方が、不服そうに顔を歪めるんだから不思議だ。

「何でそんな、不安そうにするわけ?」
「そりゃ……お父さんの作ったやつよりは味が……でも」
「でも?」
「あ、あ、ぅ……っ。あいじょーは、入ってます、ので」
「……はっ、恥ずかしいなら言わなきゃいいじゃん」
「どうしても、蛍くんのケーキは自分で作りたかったから」
「そういう……馬鹿じゃないの」

 馬鹿だと言いながら、鼻先をつまんでくる。恨みがましく見上げた先、辛辣な言葉とは裏腹の優しい顔をした蛍くんがいて。喜んでくれているって、ちゃんとわかるから。
 ああ、私。この顔が見たかったなぁ。蛍くんのお誕生日をお祝いしたい人は沢山いると思うけど。私だってこの気持ちは、譲れないって思っちゃったから。

「蛍ふん……いふぁい」
「ああ、ごっめーん?」
「もう、鼻赤くなっちゃったよ」
「愛情の辺りからもう赤かったケド?」
「蒸し返さないで!」
「いただきまーす」

 散々私をからかった後だからか、楽しそうな蛍くんがケーキを食べてくれる。一瞬の緊張。フォークをサクサク進めていく蛍くんに、心底ほっとした。
 気にいってもらえたみたいで良かった。顔が勝手に笑っちゃう。蛍くんが私の作ったケーキを食べてくれて嬉しい。今日をお祝い出来て嬉しい。
 蛍くんが生まれた大事な日に、私と一緒にいてくれて嬉しい。やっぱり今日この瞬間に、何か月分かの運は使い果たした気がする。
 もしかしたら一年分かも。来年もお祝いしたいから、来年の分は流石に残っていると思いたい。毎年、おめでとうって言いたいなぁ。
 黙々と食べ進めている蛍くんをこっそり見て、泣きたいくらいの気持ちになる。こんな気持ちは知らなかった。誰も教えてくれなかった。
 蛍くんと一緒にいられた中で、沢山のことを教えてもらえて。私は本当に、自分がラッキーだなぁって思うんだ。

「……何?」
「蛍くん、生まれてきてくれてありがとう」
「そ……っちは恥ずかしくない訳?」
「だって本当にそう思ったし」
「ふーん。愛情入りは嘘だったんだぁ?」
「ち、違っ、それ……っ」
「嘘だよ。ちゃんと美味しい」

 ポンポンと頭を撫でてくれる大きな手が、誉めてくれている様な気になって。今日の私は満点だなって思うけど。もう一つあった。
 もうすぐ帰らなきゃいけないから、慌てて鞄から取り出す。

「あと、コレも」
「やり過ぎじゃないの?」
「たいしたものではないので……部活とかで使ってね?」
「ん。どうも」

 友達との作戦会議で、ケーキだけじゃなくなっちゃうからと言われて買ったタオル。これなら使ってもらえると思って買ったけど、気に入ってもらえるといいな。
 これで本日はミッションコンプリート。おめでとうという練習までさせてくれた友達に感謝しなくちゃ。「勢いで好きって言っちゃえ!」と言われたけどそれは無理そうです。
 というか、練習でもちゃんと言えなかった。だって蛍くんを前にして、そんなこと。胸がいっぱいになって、目の前がチカチカする。

「なまえ?」
「……えっ?」
「いつも以上にぼーっとしてるんだケド。大丈夫?」
「だ……っい、じょうぶ」

 フォークを箱の中に置いた蛍くんが、私の頬を遠慮がちに撫でる。触られたところから灯る様に熱くなっていく気がした。
 こんなことで固まってしまう私では、まだ告白なんて出来そうもないけど。お誕生日を一緒に祝わせてくれて嬉しいんだって、伝えてもいいかな。
 本当に、ありがとう。蛍くん。



***続***

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