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ある女子の独り言


 こんにちは、由梨音です。私のことなんて誰も興味ないと思うけど、いきなりの自分語りごめんね。
 私は平凡な顔、どっちかというと地味顔。それを頑張って手入れしてやっと派手目になるくらい。努力は惜しんでないつもり。
 でも高校に入学して、進学クラスに入って。そんなに肩の力入れなくてもいいんじゃないのって思い始めた頃、友達になった子は女子力がある一部分だけ突出した子だった。

「由梨音ちゃん、これ好きだったよね?」
「わぁ、なまえの作ったフィナンシェ大好き!」
「ありがとう、良かったら食べて?ちょっと配合変えてみたんだぁ」
「私も。なまえ、私も食べたい!」
「勿論だよ、どうぞ?」

 ふわふわ笑って、どっちかと言えば普段は聞き役なのにお菓子のことになると口数の増える子で。持ってくるお菓子はどれも美味しくて、実家がケーキ屋だって知った時は皆黙って頷いていたから笑った。
 あーなるほど、って思ったもん。甘い香りさせて、こういうのが男子は好きだったりするのかなって。でも、なまえは驚くほどニブチンだから、こっちが暴走してつい余計なことまでしちゃう。
 ちょっと前の月島くん告白現場突撃ツアーは、ちょっとやり過ぎだったかなぁって。なまえが月島くんを好きって自覚したのだってついこないだだった訳だし。
 他の子がもう付き合っているかもーって騒いだ時だって、私は付き合ってない方にパフェ賭けた。あの時は儲けたわ、サンキュ。
 それだけじゃ何だし、協力だってするつもり。何でもない風を装って、お菓子を一口飲み込んでから話を切り出した。

「なまえ、もうすぐだけど何あげるつもりなの?」
「あげるって……誰に何を?」
「「は?」」
「ちょっと待って、知らないの?」

 首を傾けて疑問符ばかり浮かべているであろうなまえに、ちっと舌打ちすらしてしまった。のんびり屋でお人好し、ちょっと人見知り。
 そんな彼女はお菓子のことになると驚くほど直向きで、エネルギーを余すところなく注いでしまっているように見える。
 だから、もしかしたらって可能性はあった訳だけど。まさか、好きな人の誕生日もチェックしていないとは。

「はい、赤点!」
「え?」
「あ、いいとこに。山口っ!」

 運よく私の席の近くに山口がいて、しかも月島くんもいない。ちょいちょいと手招きすれば一瞬肩を竦ませて、それからなまえを見て安心したみたいに笑った。
 おい、失礼だな。山口。それでも小走りで来てくれる点には満足だから何も言わないでおく。

「山口からも叱ってやってよ!」
「へぁ!?え、えっと、何が?」
「なまえ、月島くんの誕生日知らなかったんだけど」
「え、え、ええっ?そうなの?」
「そうなの、じゃない!アンタが事前に教えときなさいよ、馬鹿!」
「それは流石に無茶振りでしょ」
「興奮し過ぎた、ごめん」

 びくびくしている山口を、ハラハラした様子で眺めているなまえは今にも泣きそうなくせに。私の心を落ち着かせようとしたのか、無言でまだ残っていたお菓子を差し出してきた。
 くっそう、これ本当に好き。止まらない。また一つ、また一つと手を伸ばすと、いつの間にか他の皆も食べていた。
 もうタッパだけが机に独立していて、その横では輪から抜け出た山口となまえが柔らかな空気を形成している。

「ごめんね、山口くん」
「ううん、みょうじさんも大変だね」
「あのね、失礼ついでに蛍くんの誕生日を伺ってもいいかなぁ?」

 出会った頃より変わったなと思うのは、こういうところだと思う。人見知りで緊張しがちなくせに、山口に聞いている顔は必死で。
 あー、絶対山口も可愛いなぁとか思っている。顔に出ているもんね。でも、こういう人の真剣なところって、誰が見てもちゃんと伝わるものだ。
 それが分かるから、私は少しなまえが羨ましくなっちゃう。だから応援しようとも思えるんだけど。

「うん。9月27日だよ」
「来週の木曜日……もうすぐだね」
「だから、その話をしてたんだってば!」
「皆知ってるよね、誰が聞いたんだろ。勇者ー」
「あ、それ俺が聞かれて最初に答えたかも。ツッキーに怒られてから言わなくなったけど」

 一人に言っちゃったら、もう女子全員に言ったようなものだ。勿論、なまえみたいに知らなかった子もいるにはいるだろうけど。
 それにしても、頬をかいて照れる山口。一体どこに照れる要素なんかあったんだろう。呆れつつも顔を横に向けると、痛いくらいの視線を感じた。
 少しだけ視線を彷徨わせて探ってみると、机で頬杖をつきながら挑むみたいに睨んでくる月島くんと一瞬目が合って。ナチュラルに逸らされた。
 いつの間に戻ってきたんだか。全然気付かなかったけど、これはまずい。

(あー、声大きすぎたかも)
「どうしたの?」
「ん、何でもなぁい!じゃ、山口ご苦労さん」
「え、え?」
「ツッキーが山口いないとつまんないって顔してるから、早くいってあげなよ?」

 皮肉にしか聞こえないだろうそれに、何故か山口は嬉しそうに体の向きを変えて一直線に向かっていく。気のせいかな、後ろに尻尾でも見えそうだった。
 そんな山口をにこにこしながら見つめて「山口くんって本当に蛍くんが好きだなぁ」とか何とか思っていそうななまえも私にはよく分からない。
 ツンツンと頬をつついてやった。このお嬢さんはきっと、月島くん目当てにプレゼントを持ってくる誰よりも美味しい手作りのお菓子もケーキも作れるだろうけど。
 肝心なアピールはどうだろうかと考えるとあやしい。私から見たら月島くんだってなまえのこと好きというか、少なくとも特別近く感じるけれど。
 それはなまえが気付くべきことで、月島くんが決着をつけることだと思うから。

「なまえ、放課後作戦会議しよ?」
「あ、それいい」
「賛成!」
「今日店番あるの?」
「ないよ?」
「じゃ、今日は私たちとデートね!」

 わざと大きい声でデートと強調して、オプションでなまえに抱きついて。なまえの肩ごしに顔を半分隠して、探る様に月島くんを見た。
 わぁお。眉間の皺を隠せなくなっている。本性出ちゃっていますよ、と心の中でつっこんでおく。流石に面と向かって言うのは無理。
 でも、なまえが関わると途端に品行方正なだけじゃなくなっちゃう月島くんを、もう私は知っちゃっているから。
 やっぱり月島くんにとっても、なまえって特別なんじゃないって思う訳で。二人がうまくいったらいいなぁなんて願うのだ。



***続***

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