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膨らんでしまった


 私の気持ちに似つかわしくない程、目の前のケーキはキラキラと光り輝いていた。細かい飴細工が光を反射して、今の私には眩しい位。
 お父さんの作った繊細な美をトレイに移しながら、ゆっくりとため息を零す。駄目だ、最近の私は駄目過ぎだ。分かっているのにどうしようもなくて。
 蛍くんに、ちゃんと説明しなきゃならないのに。勇気がなくて出来ないままでいる。本当は言いたくないけど、ずっとこのまま気まずいなんて嫌だし。
 自分から避けてしまったくせに、我儘ばかり思っている自分を詰った。きっかけを作る連絡も、蛍くんがしてくれたのに。
 「明日昼休み、時間作って」という決定事項のメッセージを見て、いい加減覚悟を決めるべきということは分かっている。
 分かっているのに気が重いのは、全く成り立たなくて。明日が来て欲しい様で来てほしくない。そんな気持ちだった。



 目の前の蛍くんは、相変わらず不機嫌さを隠す気はないらしい。それでも、私が下ばかり向いてしまうせいかな。頭を撫でたかと思うと、手を持ったまま少しだけ上を向かせて。

「なまえ、こっち見て」
「……うん」
「怒らない様には務めるから。話してみてよ」
「ごめんね?」
「このままの方が嫌じゃない?それは流石にお互い様って思いたい」
「うん、うん。私も嫌」

 苦々しい声なのに、少しだけ柔らかくなる表情とか。言い方は決して優しくなくても、蛍くんらしさを感じられることが。私には重要で、やっぱり近くて嬉しいから。
 ゆっくり深呼吸をしてから、順を追って話すことが出来た。

「は?告白されてたわけ?」
「うん。多分」
「多分?なにそれ」
「されました、告白」
「……あっそ」

 そもそも、初対面の人だった上に突然のことであまり要領を得なかったけれど。再現して話したら蛍くんが理解してくれたので、それで合っていると思った。
 思ったけれど、蛍くんの不機嫌さは直らない。むしろ、最初より酷くなっている気さえする。
 でもここで、怒らない様に努めてくれるはずじゃなかったのかな、と思っても言ってはいけない事位は分かる。

「で?」
「え?」
「王様が登場人物に出てこないんだけど……」
「あっ、影山くんはこの後に登場します」
「さっさと全部言えよ」
「……うん」
「ごめん。言い方きつかった」
「ううん」

 私の言葉足らずが問題だったくせに、蛍くんの咎める様な声に萎縮してしまう。手首を掴まれたところを影山くんに助けてもらったことを話した。
 本当は、助けて欲しいと願った瞬間に蛍くんのことを思い浮かべてしまったけれど。それだけは、恥ずかしいし言う勇気もなかった。
 言い終わると盛大なため息が漏れ聞こえてくる。長く深く、私の反応を伺う様に聞こえてくるのは、絶対わざとだと思う。

「しつこくされたところを王様に見られたの?」
「うん。影山くんが来てくれなかったらって思うと、ちょっと怖いよね」

 思い出すと勝手に握ってしまう手首を、蛍くんから見えない様に隠した。あの時の痛さがフラッシュバックするのは、本当に驚いたからで。
 別に誰が悪いという訳でもないと思う。私が不慣れなのも、彼が積極的だったのも。多分、一番は相性が悪いとかそういう話だ。

「……なまえが悪い」
「えっ?」
「そんなのガン無視するか逃げるかしなよ。怖いよねで済まなかったかもしれないのによくそんな感想しか浮かばないもんだねぇ。その脳みそ使えるところが偏り過ぎじゃないの?」

 グリグリと頭を指で押されて、痛さと圧迫感で膝が笑ってしまう。蛍くんが饒舌な時はからかう時か怒っている時なのが常だ。
 この声のトーンはからかっているとは思えないから、怒っていることは分かるけど。蛍くんがここまで怒っている理由は明確には分からない。
 普通はもっと上手に逃げるって話なのかもしれない。慣れないことに言い訳をして、何も変われないままではいけないとも思う。
 そもそも、今回のことで私は思い知らされた。他の誰でも、嫌なのだ。蛍くん以外の人に、あんなに不躾に触られるのは。
 蛍くんだったら、嫌ではないのは。本当に、自分の都合の良さが恥ずかしくなるけど。

「ご、ごめんね?気をつけ……」
「無理」
「う、それは……」
「だから僕が気をつけるよ」

 そう言って綺麗に笑った蛍くんの眼鏡の奥は、きらりと光って揺れていた。私はきっと口が開いていたままだったと思う。
 見蕩れていたと気付いてから、慌てて蛍くんの言葉の意味を考えてももう遅い。

「蛍くん、えっと、」
「授業遅れる。行くよ」

 言うだけ言って先に歩き出してしまった蛍くんに、何とかついていく。一度も振り返ってくれない背中を眺めながら、ずっと同じことを心の中で繰り返した。
 本当は蛍くんに告白されたこと知られたくなかったなぁって思ったこと、伝えても良かったのかな。
 そして、蛍くんが告白されていたのを私に隠したがっていた理由も、そういう意味が少しはあるのかなぁと期待してしまったのを。
 かき消そうと思っても、もう消し去りようがなかった。



***続***

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