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面倒でも仕方ない


 誰にも話しかけないで欲しい。それでもって、その事に関して文句も言わずにいて欲しい。そんな態度を崩さない僕の所為で、部活は殺伐としたものになった。
 それでも、態度を改める気がない。改める気がないというより、余裕が全くなくなってしまった。
 こんな予想はしていなかった。影山となまえは、僕を介して知り合ったはずで。多少の接点はあったとしても、二人で会う程の仲だなんて知らない。
 ましてや、何か秘密を共有するような。そんな、親密さはいらない。いらないなんて、自分の願望がダダ漏れの希望的観測だけれど。

「つ、ツッキー?」
「何?山口」
「おい、月島」

 部室で僕を伺う様に訪ねてくる山口への返事は出来るのに、王様へのそれはガン無視してやった。うるさい、今話しかけないでほしい。
 僕が一番気になって、知りたいことは教えてくれる気がないくせに。あの、痛そうな赤い跡。たった数日で消えたソレを、今でも詳細に思い出せる自分に笑える。
 あんなものはなまえの腕に必要ない。流石に、必死の弁明を何度も思い出す内に影山がやったとはもう思っていないけど。
 じゃあ誰だよって言いたくなる。何でなまえが隠すのかも、影山が助けたのかも。全部全部気に入らない。

「おい……」
「ツッキー、影山呼んでる」
「うるさいよ。聞こえてる」
「じゃあ返事しろ!」
「はぁ?僕の質問に答えなかったのはそっちじゃなかったですかー?」

 大きな音を立ててロッカーを閉める。勢いのついたそれと一緒に本音が飛び出して、自分で言ったくせに舌打ちを決めた。
 そのことが決定打だったかは分からない。影山が同じように、自分のロッカーを盛大に拳で殴った。主将に怒られなきゃいいね。

「だから!あれはお前の誤解だって言ってんだろーが!いい加減にしろ、てめぇボゲ!」
「それは分かったって言ってるでしょ。そんな怒鳴らなくたって聞こえてるよ、馬鹿なの?」
「おい、二人とも喧嘩やめろよ!」
「日向、お前が言うのかソレ……」

 田中さんが小さくツッコミを入れて、ここが部室だと思い出させてくれた。一歩ずれたみたいな論点で戦う相手に、面倒くささが勝る。
 勝るのに、ちっとも納得出来ていない自分がいて。思い出すのは、泣きそうなのに困った様子でこっちを伺ってくるなまえの顔ばかりだ。
 あれ以来、まともに話出来ていない。忙しいこともあるけれど、なまえが分かりやすく僕から顔をそらすから。それでいて、困った様な寂しそうな顔をするから。
 こんなのってないと思う。一体何をそんなに恐れているのか、全然分からなくてむかつく。

「だから、ちゃんと言いたい事があるなら言えっつってんだろ!」
「僕は別にないけど?」
「俺にじゃねぇ、分かれっ!」

 かろうじてなまえの名前を出すことを留まった王様に、少しだけ感心させられる。肩で息をする影山の声は、部室中に鳴り響いた訳だけど。
 何事かと話題に入りたそうにしている西谷さんと田中さんを、菅原さんが「先帰るべ」と引き摺って行った。山口がそれに続いて、日向まで連れて行ってくれたんだから感謝しなきゃならないかもね。

「吃驚した。王様、人のこととか考えられるんだね」
「はあああぁ?」
「ははっ、怖」
「ふっざけんな、ボケっ!」

 語彙力が残念過ぎる。壊れた玩具みたいに同じことを繰り返してくる相手に、わざと大きなため息を聞かせて。
 馬鹿みたいだと思うのに、本当は自分が一番馬鹿だって気づいている。こんなこと、ある?

「じゃ、お先にー?」
「……?」

 眉間にも口の上にも皺を作りながら、ちょっと顔を傾けている影山を見たのが最後。部室を出て最初に受けた風は、僕のどこかを逆なでした。

「待て、この、月島っ!」
「うるさ……ここ外なんですケド」
「勝手に終わらせんなっ!」
「あーハイハイ。分かったよ」
「じゃあ今日行け。今から行け。明日まで待たねえからな」
「はぁ?何で君が……」
「調子を戻せ今すぐに。あと、みょうじさんはマジで悪くねぇ」

 最後だと思っていたのは僕だけで、王様は終わらせる気なんかなかったらしい。ついになまえの名前を出したこいつを、きっと僕は嫌な顔して睨んでいるんだ。
 情けない。そんなこと、言われなくても知っている。知っているのに、言われる羽目になったのは僕が悪いことも。

「お前、その顔ヤメロ!」
「元からこんな顔ですけど?すみませんねぇ」
「違う。みょうじさんに向けてるみたいなやつ、やってやれ」
「……っ」
「全然違うだろ。みょうじさんも違うから言えねぇんだよ」
「クソ」
「ああ?聞こえてんだよ!」

 本日一番聞きたくないセリフを聞いたかもしれない。最悪の気分だ。この、バレー馬鹿にすら僕の気持ちが知られているなんて、本当に最悪な話。
 でも、なまえが気づいていないんだから何の意味もない。だったらやっぱり、僕のやることは一つしかなくて。
 自分から折れて、結局聞きたいことを聞き出すしかない。この顔でそのままいくとまた怯えるだろうから、少し注意しなきゃならないらしいけど。
 全く、なまえは面倒くさい。その上、面倒くさいと思っているのにやめる気のない自分はもっと面倒くさい。



***続***

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