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正解は見えない


 ファミレスからどうやって帰って、なまえをどうやって送り届けたのか記憶が曖昧だ。それ位僕は怒りと動揺と後悔がごっちゃになっていて、とにかく機嫌が悪かった。
 運が悪かったと言えばそれまで。どこまでも目敏い先輩二人に、どうせなら利用してしまえと考えたのも自分自身だったのに。
 こんなのは予想外だった。まさか反応を見ようと思っていた僕の方が、口に出して主張したことで、その想いを嫌という程思い知らされてしまうなんて。

 自室に篭って溜息を吐き出す。いつもなら何気ない話を運んでくるなまえからのメールも、今日はまだ着信を伝えてこない。
 もしかしたら、今日からは今までと同じ様に接しては貰えなくなるかもしれない。そんな有り得ない可能性まで思考が飛躍して、全くもって嫌になる。
 ヘッドフォンを耳に乱暴に押し付けて、外からの雑音を遮断した。流れてくる大音量の音楽は、内側からドロリと噴出す不安要素までは掻き消せない。
 大袈裟に深呼吸したつもりが、途中からまた溜息になる。ベッドに傾くままに寝転べば、ヘッドフォンが眼鏡とかち合って耳からずれた。
 自分に向けてわざわざ舌打ちするのもどうだ、とか考えている内に携帯が震えているのが聞こえて。飛び起きて確認したのはいいものの、想像していた人物とは違っていた。

「何か用?山口」

 相手は山口で、自分から電話してきたくせに電話口で口篭り、言葉を選んでいる様子だった。そんな山口にいい予感はしない。
 大袈裟に一つ、咳払いをしてみる。いつもなら顎をしゃくるところだけど、生憎電話ではそれは使えない。山口は散々迷ったくせに、話し出す時は唐突に切り出した。

(ツッキー!ついにみょうじさんとデートしたの?)
「は?いきなり何なの?」
(え、田中さんから電話が来て!)
「あの人たち本当に何なの?そんなに暇なの?」

 ついにという言葉に何か言い返したい気持ちもあったけど、それ所ではない。情報の回る早さに辟易しながら、何と言われたのか聞き出すべきかを考えた。
 そもそも、何で山口に逐一報告する必要があったんだろうか。この様子だと、明日の朝とかすごく面倒くさそう。

(月島の想い人超可愛いじゃん!って言ってたよ!)
「何ソレ」
(だから、みょうじさんは性格も可愛いですよって言っておいた!)
「余計なことしないでくれない?」

 ふざけんな、山口。これで明日は尋問されることが決定的だ。のらりくらりとかわしていたら、主将が怒り出して終わるだろうけど。
 他の人までなまえに興味持ったらどうする気だか。本当、迷惑。

(ツッキー!もう告白しちゃえ!)
「うるさいな、馬鹿じゃないの?」
(えー、でも早くしないと結構狙ってるヤツいるし!)

 山口の言葉に上手い切り替えしが見つからなくて、喉まで出掛かっているのに出てこない。分かっているとか、僕には関係ないとか、どれを言っても違和感しかない気がして。
 相手にも心当たりはないし、一体誰だよと心の中で悪態をつく。薄暗い部屋の窓に反射する自分の顔が、酷く歪んでいるように見えた。

「余計なことしないでくれる?」
(えっ!?でもツッキー!)
「話それだけ?切るから」

 通話を終えても、携帯のディスプレイを睨んだまま。

 山口の言った事は事実だと思う。なまえはきっと自分が誰かにそういう目で見られている自覚はないし、警戒なんかしていないだろうけど。
 僕達は単純な生き物だ。誰だってそれなりに可愛くて愛想が良くて馬が合うなら、好きになるには充分事足りる。
 だから問題は、僕がそんな単純な理由で好きとか言うヤツに、なまえを取られたくないって思っていることの方だろう。

「は……簡単に言うなよ」

 告白しちゃえという山口の声が、耳の奥で反響して大きくなる。今日のなまえの驚き過ぎた顔と重なって、やっぱり後悔の方が上回る。
 最初が悪かった。だから分かっていた筈だし、なまえの人となりを知るにつれてそれは確信に近いものに変わっている。
 きっとアイツは、最初は寧ろ僕に嫌われているって思っていて。だからこそ、今は友達になれて良かったなぁ位にしか、きっと思っていない。
 自分から必要以上に異性に関わっていく性格はしていないから、僕が一番親しい男友達くらいの自信ならあるけれど。
 なまえが僕を異性として意識しているかなんて、主観が取り除けない眼鏡越しに観察したところで分かる訳がない。

(多分、焦る必要なんかないのに)

 分からないなら、彼女のペースに倣ってしまえばいい。そしてなまえが気付いた頃には、退路なんてなくなっていればいい。
 そう思ってやってきたはずなのに、現状は何も変わっていない。焦る必要はないと言い聞かせてみたものの、まだ影もない見知らぬ男が想像で形を成して気分が悪かった。



「おお、月島!っはよ!」
「声でかいよ。朝からうるさ……」
「「月島ぁぁぁ!」」

 日向とほぼ同時に部室に着いたら、中から西谷さんと田中さんの声がする。もう嫌な予感しかしないけど、視界を暈して表情が変わらない様努めた。

「月島って彼女いたんだなぁ」
「……東峰さんまで止めてクダサイ」
「おーい、程ほどにしとけよ」
「もっと厳重注意でお願いします」

 正直、3年生の何かを見守るような生暖かい目線の方が堪える。ロッカーの前で日向が何故かジャンプして、何か聞きたそうな顔をしているのが見えた。

「彼女って、みょうじさんのこと?」
「なに!?日向まで知ってたのか!」
「ハイ!こないだ一緒に勉強……あ、コーチとも知り合いっぽかった!です!」
「「何だとっ!」」
「へー……」

 日向の大変余計な一言で、部室中に驚きの声が響き渡る。気にせず着替えを続行しようと思ったけれど、右肩に圧し掛かる大きな手によってそれは困難になった。

「俺らだけ知らないなんて不公平だよな」
「ハイ?」
「そうだなぁ、大地。俺もそう思う」
「あ、俺もそれに賛成……かも?」
「「そうだぞ、月島ぁ!今度部活に連れて来い!」」

 楽しそうに歯を覗かせて主将に同意する菅原さんと賛成とか言うくせに目も合わせない東峰さんの後ろで、田中さんと西谷さんがこれ以上ない悪人面で言う。
 溜息を吐いて下を向くと、なまえの間抜けな顔が脳裏に浮かんだ。きっとアイツのことだから、深く理由も説明も求めてこないと分かるのに。
 どうせなら「彼女と勘違いされた」とか言ってみて、どんな顔するのかな、なんて。前回の反省を生かせない辺り、僕も相当神経が図太いんだと思った。



***続***

20140715

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