毎月22日はショートケーキの日らしい。ウチでは割引なんかはやっていないんだけど、大きいチェーン店だとショートケーキが割引になったりするみたい。
語っておいてなんだけど、私もクラスの子から聞いて知ったくらい。テレビでやっていてなまえちゃんところはやらないの?って聞かれたんだけど。
「ウチはやらない、かなぁ?」
「そうなんだ!まぁ毎月セールなんて個人店ではやれないよねぇ?」
たっぷりと納得顔で頷いた友達が、同意を求めてきて一緒に頭を縦に振る。この子のお家も個人商店だから、その気持ちは良く分かる。
セールってそれをするだけでコストも時間もかかるもんね。
「今日はショートケーキの日だって、知ってた?」
「何ソレ?」
案の定、そういうのに関しては知らなかったみたいだ。聞いた相手、蛍くんは眉毛を寄せて見下ろしてくる。
「カレンダー上で、イチゴ(15)が常に乗ってるから、ショートケーキの日なんだって」
教えてもらった通りに繰り返せば、蛍くんが視線を左へと寄せた。きっとカレンダーを頭の中に浮かべたりしているんだろうなぁ。
蛍くんのことだから、規則性を式にしちゃったりするんだろうか。どっちにせよ、思わず携帯のカレンダー機能を見て確認した私とは大違いだ。
「それで?」
「えっ?」
「ショートケーキの日だから、買いに来いってこと?」
にんまりといった感じで口角を上げた蛍くんは、頬杖をついたまま小声で尋ねてくる。今、大声で違うよ!なんて言ったら、ウルサイって言われちゃう。
そっと山口くんを見ながらそんなことを思ったら、山口くんと目が合って笑われた。笑い返すと、山口くんも蛍くんの机に近づいてくる。
「ねー、何の話?」
「あのね、今日は……」
「別にいいでしょ」
「えええっ!?」
山口くんが抗議の声を上げたので、私も同じ気分だったけど黙っておく。教室でショートケーキの話題はまずいのかも。
迂闊だったかな。
「それよりさ、山口は今日も嶋田さんのトコに行くの?」
「え、嶋田さんと知り合い?」
「うん、行くよー……ってみょうじさん、嶋田さんのこと知ってるの?」
知り合いだったっけ?と聞いてくる山口くんに、コクコクと頭を縦に振る。蛍くんを見ると驚いた顔をしていて。
自分の問い掛けからして迂闊だと思ったらしい。蛍くんも話題を逸らそうとしていたんだと思う。そこまで考えてから肯定してしまったのを後悔してももう遅い。
「えーっと、家が!結構近所で」
「結構?」
「あ、あの、ね……」
「なまえの家がケーキ屋だから、商店街の人と顔なじみなんだよ」
ふーっと聞こえるように溜息を吐き出してから、蛍くんが言い切った。私は吃驚して口が開いていたと思う。
山口くんを見ると同じ様に驚いていて、口があんぐり開いていた。
「そうだったんだ、あ!それで二人……」
「そういう事。あとちょっと声大きい」
「ごめん、ツッキー」
「だからうるさいって」
「蛍くん、何かごめん?」
「いいよ、もう。山口だし」
その言い方は投げやりを装っていたけど、優しさが感じられて。山口くんと顔を見合わせて、同じように笑う。
初めて会った頃の私なら、そんな優しさに気付けたかな?
「なに、二人して気持ち悪い」
「蛍くん、それは酷い!」
「それでショートケーキの日の話してたのかぁ!」
相変わらず蛍くんの辛辣な言葉には反応しない山口くんが、安堵の表情を浮かべながら言ってくる。それは私と蛍くんの話の内容を、聞いていましたと言わんばかりの独白で。
「山口、聞いてたんじゃん」
「わぁ!ごめん!」
「あはは、もっと早く声かけてくれて良かったのに」
私がそう言うと、山口くんはきょとんと目を丸くさせて。それから顔を赤くして手を目の前で交差させるから、何事かと思った。
「いや、二人の邪魔しちゃ……」
「今も充分邪魔」
「もう、蛍くん!」
「今日は山口の奢りで。ツケといて」
「えええっ!?俺?」
ショートケーキの話ばかりしていたから、気分はすっかり食べる気満々になっていたみたいだ。流石、蛍くん。
でも山口くんは用事があるみたいだし、面白いくらいに驚いているから。うーん、ツケは難しいよね。
「いいよ、私が奢る」
「え、みょうじさん?」
「違うよ!前から決めてたの。ほら、こないだの約束……」
3回戦で負けちゃったから、勝ったら奢るという約束のことは言い淀む。きっと蛍くんには、全部悟られていると思うけど。
焦っている人の良い山口くんには、負い目とか感じて欲しくないしなぁ。
「分かった。じゃあ2個ね」
「うん!了解」
綺麗に伸びた二本の指を見ながら、素早く頷く。きっと部活の後に来るだろうから、予約として置いておかなきゃなぁと思いながら、顔がニヤけるのを止められなかった。
***続***
20140426